2026年10月14日、阪急電鉄が、2027年4月4日をもって車両の中づり広告を終了すると発表しました。
長年、電車の車内で当たり前のように見かけていた中づり広告。
その終了理由のひとつが、スマートフォンやデジタルメディアの普及による「情報の受け取り方の変化」です。
このニュースを見て、ぼくは展示会のことを考えました。
実は、電車の中づり広告と展示会のブースには、ある共通点があります。
それは、「人が集まる場所に情報を掲示し、偶然の出会いを期待する」という仕組みです。
そして今、その仕組みだけでは十分な成果が得られなくなっている面があると思うのです。
「そこに広告がある」だけでは見てもらえない
かつて、電車の中は広告にとって絶好の場所でした。
乗客は移動中、手持ち無沙汰になることも多く、自然と中づり広告に目を向けていました。
ところが、今はどうでしょう。
多くの乗客がスマートフォンを見ています。
ニュースを読む。動画を見る。SNSをチェックする。仕事のメールを返す。
目の前に広告があっても、必ずしも見てもらえるわけではありません。
つまり、「人がいる場所に情報を置けば、自然と届く」という前提が崩れてきたのです。
これは展示会でも同じことが言えます。
展示会には、自社の商品やサービスに関心を持ってくれそうな人が大勢集まります。
だからといって、ブースに商品を並べ、会社案内を置き、大きな社名を掲げておけば、来場者が興味を持ってくれるとは限りません。
実際、展示会場を歩いていると、立派なブースなのに来場者がほとんど立ち寄らないケースを見かけます。
一方で、小さなブースなのに、次々と来場者が足を止め、活発な会話が生まれている企業もあります。
この違いは、いったいどこから生まれるのでしょうか。
来場者は展示会に来る前から情報を集めている
弊社が実施した『展示会白書』では、出展者536名、来場者1,089名を対象に調査を行いました。
その結果、業務上の情報収集手段として、Web検索を利用する人は56.5%、AI検索を利用する人は50.2%、展示会に来場する人は50.0%でした。

さらに、展示会来場者の79.8%は、Web検索またはAI検索も併用していました。
つまり、展示会に来る人は、展示会だけで情報を集めているわけではないのです。
普段からWebやAIで情報を集め、ある程度の知識を持った状態で展示会にやってきます。
さらに、別の調査によると、来場者の39.2%は、訪問予定の出展企業を事前に3〜5社決めていました。

こうした数字から見えてくるのは、展示会が単なる「情報を初めて知る場所」ではなくなりつつあるということです。
かつては、展示会で初めて商品を知り、その場で説明を受けること自体に大きな価値がありました。
しかし、今は違ってきています。
商品の特徴や仕様、価格帯などは、展示会に行かなくても調べられる場合が増えています。
だからこそ、展示会で企業が提供すべき価値も変わってきているのです。
そして、この変化は、今後ますます加速することが予想されます。
「見せる展示会」から「関わりたくなる展示会」へ
ここで、もう一度、阪急電鉄のニュースに戻ってみましょう。
阪急電鉄は、中づり広告を終了することで、車内の見通しや開放感を高め、快適な空間を実現することも目指しています。
ぼくは、この点にも注目しました。
広告をたくさん掲示することよりも、乗客が快適に過ごせる空間を優先する。
つまり、情報を発信する側の都合だけでなく、その場所にいる人の体験を重視する判断だと考えられます。
展示会でも、同じ発想が必要だと思うのです。
出展企業は、どうしても自社の商品を見せたい、説明したい、アピールしたいと考えます。
その結果、ブースの壁いっぱいに商品の特徴やスペックを書き並べてしまう。
しかし、来場者が求めているのは、必ずしも大量の商品情報ではありません。
「自分の課題を解決できるのか?」
「今まで知らなかった使い方があるのか?」
「この会社と話すと、何か新しい発見がありそうか?」
こうした期待に応えることが重要なのです。
来場者が求めているのは、Webでは得られない体験
『展示会白書』では、来場者が展示会で期待以上だと感じたブースについても調査しました。

上位に挙がったのは、次のような項目です。
開発者と直接対話できた:49.1%
他社では聞けない事例を知れた:42.2%
自分の課題に合った提案を受けられた:34.3%
実際に商品やサービスを体験できた:30.9%
一方、不満として多かったのは、「売り込み感が強い」「質問に的確に答えてもらえない」「Webと同じ情報しか得られない」といった内容でした。

この結果は、実に示唆的です。
来場者は、情報を一方的に受け取るためだけに展示会に来ているのではありません。
人と話し、実物に触れ、自分に合った答えを見つけるために来ているのです。
ここに、デジタルメディアでは代替しにくい展示会の価値があります。
ブースのキャッチコピーも「説明」から「課題解決の宣言」へ
では、出展企業は具体的に何を変えればよいのでしょうか。
ぼくがおすすめしていることのひとつが、ブースのキャッチコピーを見直すことです。
例えば、産業用の検査装置を扱う企業があったとします。
ブースに、
「高精度・高速処理を実現する最新検査装置」
と書いてあったらどうでしょう。
もちろん、商品の特徴は伝わります。
しかし、来場者にとって、自分に関係のある話なのかどうかは、すぐには分かりません。
これを、
「目視検査の人手不足を解消!検査時間を13%短縮」
と変えたらどうでしょうか。
目視検査に人手を取られて困っている企業の担当者なら、「これは自社に関係がありそうだ」と感じ、思わず足を止めるかもしれません。
ここで重要なのは、キャッチコピーを疑問形にしないことです。
ぼくは、展示会ブースのキャッチコピーは、問いかけるよりも、来場者の課題に対して「何ができるのか」をズバッと言い切る方が効果的だと考えています。
展示会の来場者は、数多くのブースの前を歩いています。一つひとつのキャッチコピーをじっくり読んで、意味を考えてくれるわけではありません。
だからこそ、ひと目で「誰の、どんな課題を、どう解決するのか」が伝わる言葉が必要なのです。
具体的なコピーの考え方や作成手順については、展示会のキャッチコピー例・テンプレート集でも紹介しています。
さらにブース内で、実際の検査を体験できたり、自社と似た企業の改善事例を聞けたりすれば、自然と会話が始まります。
大切なのは、キャッチコピーだけを工夫することではありません。
「自分に関係があると気づく→興味を持つ→体験する→対話する」という流れを設計することです。
商品を一方的に説明するのではなく、まず来場者に「このブースは自分の課題を解決してくれそうだ」と感じてもらう。そして、その期待に応える体験や対話を用意する。
これが、AI時代の展示会で成果を出すための重要なポイントです。
情報があふれる時代だからこそ、リアルな出会いを設計する
今回の阪急電鉄のニュースは、紙の広告がすべて不要になったという話ではありません。
また、リアルな情報発信の価値がなくなったという話でもありません。
人々の情報取得手段や、その場所で求める体験が変化したことで、従来の広告のあり方が見直されたということです。
展示会も同じです。
人が集まる場所にブースを構えるだけで、自然と成果が生まれるわけではありません。
しかし、来場者が何を求めているかを理解し、その期待を超える体験や対話を提供できれば、展示会は非常に強力な営業の場になります。
AIが普及すればするほど、一般的な商品情報はますます簡単に手に入るようになるでしょう。
だからこそ、展示会では、検索しても分からないこと、画面越しでは伝わらないことを提供する必要があります。
この点については、AI検索でゼロクリック68%!展示会の役割はどう変わる?でも、AI時代におけるリアルな展示会の価値を掘り下げています。
「見てもらう場所」から「関わりたくなる場所」へ。
中づり広告の終了というニュースは、展示会に出展する企業にとっても、自社の情報発信のあり方を見直すきっかけになるのではないでしょうか。

展示会営業(R)コンサルタント。経済産業大臣登録中小企業診断士。詳細はウィキペディアご参照。
展示会をテーマとした著書5冊を含む合計7冊を執筆し、すべてAmazon部門1位を獲得している。執筆書籍は、すべてamazon部門1位を獲得しており、「日経MJ」、「NHKラジオ総合第一」他、多くのメディアで取材を受けている。1300社を超える展示会出展支援経験に基づく実践的なアドバイスが好評を博している。ほぼ毎週、東京ビッグサイトに出没する自称 展示会オタク。
