出展企業の視点だけでは、展示会の実態を十分に描くことはできない。展示会は出展者と来場者の双方向的な交流によって成立する場であり、来場者が何を期待し、どう行動し、どのような影響を受けているかを理解することは、出展成果を高めるうえで不可欠である。本章では、前編につづき、来場者側の実態を独自調査に基づいて明らかにする。
■調査の限界と留意点
本調査は、直近1年以内に展示会(見本市・商談展・トレードショーなど)に業務目的で来場した会社員を対象に、展示会来場者の情報収集行動と購買意思決定の実態を把握することを目的に実施したものである。
調査方法:株式会社IDEATECHが提供するリサーチマーケティング「リサピー®」の企画によるインターネット調査
調査期間:2026年4月8日~同年4月9日
有効回答:直近1年以内に展示会(見本市・商談展・トレードショーなど)に業務目的で来場した会社員1,089名
■調査の限界と留意点
本調査はインターネット調査として実施しているため、回答者は一定程度のデジタル機器操作能力を有し、インターネット利用に抵抗感の少ない層に偏っている可能性がある。また、回答者の業種・役職・企業規模の分布が国内企業全体を代表しているとは限らない点にも留意が必要である。
なお、構成比は小数点以下第2位を四捨五入しているため、合計しても必ずしも100%とはならない。
5-5. 展示会後の行動
■展示会後の追加情報収集
展示会後にWeb・AI検索で追加の情報収集をしたことがあるかを尋ねた結果、「はい」が76.7%、「いいえ」が21.9%となった。約8割の来場者が、展示会での接点をきっかけに、オンラインでの追加調査を行っている。
この結果は、展示会とデジタル情報源が「対立関係」ではなく「連続的な情報収集プロセスの一部」として機能していることを示している。つまり、展示会で興味関心を喚起された来場者が、その後オンラインで詳細情報を確認するという購買行動の流れが、一般化していると考えられる。
出展側にとっては、展示会後に来場者がWeb上で出展商材に関する情報を十分に確認できるかどうかも、成果を左右する要因となりうる。
展示会後の追加調査で利用する手段
【図5-14】
図5-14:展示会後にAI検索ツール(ChatGPT・Perplexityなど)やWeb検索で追加の情報収集をしたことがありますか。最多は「はい」の76.7%です。
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| 項目 | 割合 |
|---|---|
| はい | 76.7% |
| いいえ | 21.9% |
| わからない/答えられない | 1.5% |
■フォローアップへの不満
展示会後に出展企業から受けたフォローアップについて、不満やストレスを感じた経験があるかを尋ねた結果、「はい」が71.6%に達した。約7割の来場者が、展示会後のフォローに何らかの不満を抱いた経験を持つ。
展示会後フォローで不満だったこと
【図5-15】
図5-15:展示会後に出展企業から受けたフォローアップについて、不満やストレスを感じた経験はありますか。最多は「はい」の71.6%です。
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| 項目 | 割合 |
|---|---|
| はい | 71.6% |
| いいえ | 26.1% |
| わからない/答えられない | 2.3% |
不満を感じたと回答した来場者(n=780)に対し、その具体的な内容を複数回答で尋ねた結果、「ブースで話した内容と無関係な営業をされた」が50.6%で最多となった。次いで「名刺交換しただけなのに強引な売り込みをされた」が43.2%、「興味のない製品・サービスのメールが大量に届いた」が40.4%、「フォローのタイミングが遅すぎた」が29.6%で続いている。
注目すべきは、「ブースで話した内容と無関係な営業をされた」という回答が半数に達している点である。ただし、この結果を、出展企業がブースでの会話内容を詳細に記録し、それを踏まえてフォローすることが必須である、という意味だけでとらえるのはやや単純化しすぎである。
本章第2節で見たとおり、来場者は1回の展示会来場で4~10社程度のブースに立ち寄ることが多く、10社を超えるケースも存在する。また、1社あたりのブース滞在時間は、「10~20分未満(39.5%)」が最多、「5~10分未満(36.8%)」である。つまり、来場者は短時間で複数のブースを回り、多くの情報に触れている。
一方、出展者側も1日に多くの来場者と接し、にぎわう会場の中で限られた時間内に対応する必要があるため、すべての会話内容を詳細に記憶・記録したり、込み入ったヒアリングや詳細な課題整理をその場で十分に行ったりすることは容易ではない。
そうした前提を踏まえると、「ブースで話した内容と無関係な営業をされた」という不満は、会話内容の細かな記録不足というより、来場者が関心を示したテーマと、会期後に届いた営業内容との間に明らかなずれがあった場合に生じている可能性がある。たとえば、同一ブース内で複数の製品・サービスを展示している場合、来場者は特定の製品について説明を受けたにもかかわらず、会期後には別の製品・サービスについて営業を受けることがある。
理想的な展示会後フォロー
【図5-16】
図5-16:展示会後、出展企業から受けたフォローアップで不満やストレスに感じた内容は何ですか?(複数回答)。最多は「ブースで話した内容と無関係な営業をされた」の50.6%です。
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| 項目 | 割合 |
|---|---|
| ブースで話した内容と無関係な営業をされた | 50.6% |
| 名刺交換しただけなのに強引な売り込みをされた | 43.2% |
| 興味のない製品・サービスのメールが大量に届いた | 40.4% |
| フォローのタイミングが遅すぎた(展示会から数週間以上後) | 29.6% |
| 同じ企業から複数の担当者が別々に連絡してきた | 18.3% |
| 電話での営業が頻繁だった | 13.5% |
| その他 | 0.4% |
| わからない/答えられない | 1.2% |
このような場合、出展企業側にとっては同じ企業内の関連提案であっても、来場者にとっては「自分が関心を示した内容とは違う営業をされた」と受け止められやすい。
この課題への対応策である、出展コンセプトの絞り込み、会期後フォローの設計などについては、第8章で詳しく論じる。
■理想的なフォローアップ
一方、理想的なフォローアップを複数回答で尋ねた結果、「ブースで話した内容を踏まえた提案や情報提供があること」が56.3%で最多となった。次いで「自社の状況にあわせてカスタマイズされた事例の提供」が38.9%、「継続的に役立つ情報(メルマガ・レポート等)の提供」が32.4%、「展示会翌日~3日以内のタイミングで連絡がくること」が25.0%、「しつこくなく、こちらのペースを尊重した連絡頻度」が21.4%で続いた。
来場者が求めているのは、一方的な売り込みや営業攻勢ではなく、展示会でのブース体験を踏まえた、自社にとって役立つ個別具体的な情報提供であることがわかる。
名刺交換後に許容できる営業連絡頻度
【図5-17】
図5-17:理想的なフォローアップはどのようなものですか?(複数回答)。最多は「ブースで話した内容を踏まえた提案や情報提供があること」の56.3%です。
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| 項目 | 割合 |
|---|---|
| ブースで話した内容を踏まえた提案や情報提供があること | 56.3% |
| 自社の状況にあわせてカスタマイズされた事例の提供 | 38.9% |
| 継続的に役立つ情報(メルマガ・レポート等)の提供 | 32.4% |
| 展示会翌日~3日以内のタイミングで連絡がくること | 25.0% |
| しつこくなく、こちらのペースを尊重した連絡頻度 | 21.4% |
| 次のアクション(デモ・訪問・オンライン商談等)の具体的な提案 | 17.8% |
| 特にフォローは不要 | 6.1% |
| その他 | 0.2% |
| わからない/答えられない | 1.6% |
また、月に1回程度のメルマガや情報提供について尋ねた結果、「基本的に目を通す」が28.2%、「内容が自社の業務に関連する情報であれば目を通す」が56.9%となり、合計で85.1%が業務関連性のある情報であれば受け取る意向を示した。
継続的なメールマガジンへの反応
【図5-18】
図5-18:名刺交換した出展企業から、月に1回程度の頻度で継続的にメールマガジンや情報提供が届いた場合、あなたはどうしますか。最多は「内容が自社の業務に関連する情報であれば目を通す」の56.9%です。
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| 項目 | 割合 |
|---|---|
| 内容が自社の業務に関連する情報であれば目を通す | 56.9% |
| 基本的に目を通す | 28.2% |
| 基本的に目を通さない | 9.0% |
| 配信を停止する | 4.9% |
| わからない/答えられない | 1.0% |
これは、単なる営業メールでなく、来場者の業務に資する情報提供であれば、継続的な接点を築ける可能性があることを示唆している。ただし、この結果は「メルマガを送れば読まれる」ことを意味するものではない。BtoB領域におけるメルマガは、一般に開封率が高くないとされる。にもかかわらず、本調査では85.1%が「業務に関連する情報であれば目を通す」と回答している。ここから読み取れるのは、来場者がメールという手段そのものを拒否しているのではなく、売り込み色の強い配信を拒否しているという構造である。配信内容の質を中心としたフォロー設計の実践論については、第8章で詳しく論じる。
5-6. AI時代の展示会への認識と今後の来場意向
■AI・デジタル時代における展示会の重要性
第2章で確認したとおり、生成AIをはじめとするデジタル技術の急速な普及は、BtoBマーケティング全般に大きな影響を及ぼしている。こうした環境変化の中で、来場者自身は展示会の重要性をどのように認識しているのか。
AI・デジタルマーケティングが急速に普及する中での対面展示会の重要性について尋ねた結果、「大幅に高まると思う」が16.4%、「やや高まると思う」が51.5%となり、合計で約7割(67.9%)が展示会の重要性は今後「高まる」と回答した。一方、「変わらないと思う」は24.5%、「やや低下する」「大幅に低下する」の合計は5.7%にとどまっている。
AI時代における対面展示会の重要性
【図5-19】
図5-19:AI・デジタルマーケティングが急速に普及する中、対面展示会の重要性は今後どうなると思いますか?。最多は「やや高まると思う」の51.5%です。
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| 項目 | 割合 |
|---|---|
| 大幅に高まると思う | 16.4% |
| やや高まると思う | 51.5% |
| 変わらないと思う | 24.5% |
| やや低下すると思う | 5.1% |
| 大幅に低下すると思う | 0.6% |
| わからない/答えられない | 1.8% |
来場者側の認識として注目すべきは、AI・デジタル技術が急速に普及する状況下でも、対面展示会の重要性について「低下する」と見る層が1割に満たない点である。
情報収集手段としてAI検索ツールを利用する来場者が50.2%に達している(5-2節参照)。一方で、対面展示会の重要性について「低下する」と見る層は1割に満たない。したがって、AI検索の普及は、展示会の価値を直ちに代替するものではなく、情報収集プロセスの中で異なる役割を担うものとして捉える必要がある。
■展示会の重要性が高まると考える理由
展示会の重要性が高まると回答した来場者(n=740)に対し、その理由を複数回答で尋ねた結果50)、「オンライン商談だけでは構築しにくい信頼関係を対面で築けるから」が63.4%で最多となった。「AI検索では得られない、五感を使った製品体験や実物確認ができるから」が42.7%、「情報過多の時代に、直接対話で得られる一次情報の価値が高まっているから」が41.6%、「デジタル施策だけでは競合との差別化が難しくなっているから」が31.4%で続いている。
来場者が考える展示会の重要性が高まる理由
【図5-20】
図5-20:展示会の重要性が「高まる」と思う理由は何ですか?(複数回答)。最多は「オンライン商談だけでは構築しにくい信頼関係を対面で築けるから」の63.4%です。
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| 項目 | 割合 |
|---|---|
| オンライン商談だけでは構築しにくい信頼関係を対面で築けるから | 63.4% |
| AI検索では得られない、五感を使った製品体験や実物確認ができるから | 42.7% |
| 情報過多の時代に、直接対話で得られる一次情報の価値が高まっているから | 41.6% |
| デジタル施策だけでは競合との差別化が難しくなっているから | 31.4% |
| 来場者は購買意欲が高く、質の高い商談につながりやすいから | 18.4% |
| 業界トレンドや競合動向を短時間で一度に把握できる場として代替がないから | 11.9% |
| その他 | 0.9% |
| わからない/答えられない | 0.3% |
来場者が挙げる「重要性が高まる理由」の上位は、「信頼関係の構築」「五感を使った製品体験」「一次情報の価値」「競合差別化」と、いずれもデジタル施策では代替しにくい価値に集中している。
出展企業を対象とした同趣旨の設問でも、「オンライン商談だけでは構築しにくい信頼関係を対面で築けるから」が66.5%、「AI検索では得られない、五感を使った製品体験や実物確認ができるから」が53.4%、「情報過多の時代に、直接対話で得られる一次情報の価値が高まっているから」が47.7%となっている(4-6節参照)。
出展者と来場者という立場の異なる主体が、展示会の価値の源泉について、上位3項目まで同じ順序で評価している構造が確認できる。この一致は、展示会が果たすべき役割について、双方に共通の認識基盤があることを示唆している。
一次情報の価値、対面での信頼関係構築、五感を通じた製品体験。これらは展示会の根本的な価値として、デジタル化が進みAIによる情報収集・分析が普及する時代においても、その重要性はむしろ高まっていく可能性がある。
■今後の来場意向
AI時代における展示会の重要性認識は、来場者の今後の行動意向にも表れている。
今後の展示会来場意向を尋ねた結果、「積極的に来場したい」が31.4%、「機会があれば来場したい」が62.0%となり、合計93.4%が今後も来場意向を示した。「あまり来場したいと思わない」は4.9%、「来場するつもりはない」は0.6%にとどまっている。
今後の展示会来場意向
【図5-21】
図5-21:今後の展示会来場意向について教えてください。最多は「機会があれば来場したい」の62.0%です。
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| 項目 | 割合 |
|---|---|
| 積極的に来場したい | 31.4% |
| 機会があれば来場したい | 62.0% |
| あまり来場したいと思わない | 4.9% |
| 来場するつもりはない | 0.6% |
| わからない/答えられない | 1.2% |
本章第5節で確認したとおり、展示会後のフォローアップに71.6%の来場者が不満を抱えている。それにもかかわらず、展示会への来場意向が9割以上に達している点は、来場者が展示会という場そのものに見出している価値の強固さを示している。
来場者が不満を持つ対象は「出展企業の対応」であって、展示会という場の価値ではない。この認識のレイヤーの違いは、出展企業がフォローアップ設計を見直す余地が大きいことを示唆すると同時に、展示会自体の持つ求心力を裏付けるものでもある。
第4章で確認した出展企業側の予算増加見込み(63.5%)や出展方針の拡大・維持(合計87.1%)と、来場者の来場意向(93.4%)を重ね合わせれば、展示会というチャネルは、今後も中長期的に出展側・来場側の双方から支持される構造にあることが見えてくる。
5-7. 来場者の変化 ~2020年調査との比較から見える時代の変化~
本節では、当社が2020年10月に実施・発表した展示会実態調査(来場者編 n=10651)、出展者編 n=10652))との比較を通じて、コロナ禍を経た6年間で、来場者の行動や認識がどう変化したかを検討する。
ただし、比較の上では以下の点に留意が必要である。2020年調査は有効回答106名という小規模調査であり、かつコロナ禍の特殊な状況下で実施されたものである。2026年調査(n=1,089)とは調査規模・社会背景が異なるため、厳密な定量比較ではなく、来場者行動の時系列的変化を読み取るための「補助線」として位置づけるのが適切である。
■来場理由の変化 ── 「情報収集」から「商談・比較検討」へと多様化
まず、来場理由の比較から確認する。
2020年調査では、来場理由の圧倒的1位は「情報収集や業界トレンドの把握」(74.5%)であり、他の理由を大きく引き離していた。当時の展示会は、まず「業界の空気感を掴みに行く場」として認識されていたといえる。
2026年調査では、「情報収集」の比率は52.3%と低下する一方で、「特定の製品やサービスの商談」は25.5%から42.7%へと大幅に増加している。あわせて、「導入を検討している製品・サービスの比較検討」(33.1%)、「製品・サービスの実物を体験・確認すること」(30.4%)といった、より具体的な検討行動を伴う来場理由も2026年調査で新たに上位に並んでいる。
この変化を「情報収集が減って商談が増えた」と単純に読み解くのは、必ずしも正確ではない。比較検討も実物体験も、広い意味では情報収集の一形態である。むしろ、ここで示唆されているのは、来場者の情報収集行動における「質的な変化」であると考えられる。
2020年当時の「情報収集や業界トレンドの把握」には、「業界の空気感をなんとなく掴みに行く」という、目的が必ずしも明確でない来場行動が一定数含まれていた可能性がある。一方、2026年調査では、その「なんとなくの情報収集」の一部が、「具体的な製品の商談」「導入候補の比較検討」「実物の体験・確認」といった、より目的志向の強い行動に分化している。つまり、来場者の情報収集は、従来のように「広く浅く」把握するだけでなく、「狙いを定めて深く」確認・検討する方向へと重心を移しつつある可能性が示唆される。
来場理由の変化
【表5-1】
来場理由の変化(複数回答):2020年調査(n=106)と2026年調査(n=1,089)の比較[来場者]
| 来場理由 | 2020年調査 | 2026年調査 |
|---|---|---|
| 情報収集や業界トレンドの把握 | 74.5% | 52.3% |
| 取引先などからの招待 | 39.6% | 43.8% |
| 特定の製品やサービスの商談 | 25.5% | 42.7% |
| 自社が展示会を行う際の勉強 | 25.5% | 33.2% |
| 導入を検討している製品・サービスの比較検討 | ― | 33.1% |
| 製品・サービスの実物を体験・確認すること | ― | 30.4% |
2020年調査では選択肢として設けていなかった項目は「―」と表記。
こうした目的志向の強まりの背景には、コロナ禍を経た来場行動の変化があると考えられる。コロナ前の展示会には、「何か面白いものがあれば見る」といった、比較的ゆるやかな目的で来場する人も一定数存在していた。
しかし、コロナ禍によって状況は大きく変わった。感染リスクへの警戒感が高まる中で、それでも展示会場に足を運ぶ来場者は、単なる情報収集ではなく、何らかの具体的な必要性や確認したい課題を持つ人に絞られていったと考えられる。
そして、この傾向はコロナ後も一定程度続いている。展示会は、なんとなく訪れる場から、自社に必要な情報を得るため、実物を確認するため、比較検討を進めるための場へと、来場者側の意識が変化しつつある。この変化は、展示会が漠然とした情報収集の場にとどまらず、具体的な検討を前に進める場としても位置付けられつつあることを示唆している。
本章2節で確認したとおり、来場者の9割以上が事前に訪問候補ブースを決めて来場している現在の行動パターンは、こうした目的志向の強まりと整合的である。出展側の観点からいえば、「業界トレンドを見に来た来場者」を想定したブース設計から、「具体的な業務課題を抱えて訪れる来場者」を想定したブース設計へと、対応の前提を更新する必要があるといえる。
■情報収集手段の劇的な変化 ── AI検索の台頭と展示会の相対的位置
情報収集手段の変容は、6年間でもっとも顕著な変化の一つである。
情報収集手段の変化
【表5-2】
情報収集手段の変化(複数回答):2020年調査(n=106)と2026年調査(n=1,089)の比較[来場者]
| 情報収集手段 | 2020年調査 | 2026年調査 |
|---|---|---|
| Web媒体 / Web検索 | 54.7%(Web媒体) | 56.5%(Web検索) |
| SNS | 38.7% | 28.1% |
| 書籍や雑誌などの紙媒体 | 34.0% | 11.8% |
| 営業担当者等からの情報提供 | 33.0% | 30.0% |
| オンラインセミナー | 24.5% | 26.7% |
| リアル展示会 | 19.8% | 50.0% |
| オンライン展示会 | 14.2% | ― |
| AI検索ツール | ― | 50.2% |
2020年調査と2026年調査で選択肢の文言が一部異なるため、近い項目を対応させて記載。
6年間で大きく変化した点は次のとおりである。
第一に、AI検索ツール(ChatGPT・Perplexity・Geminiなど)が50.2%と、情報収集手段の主要な選択肢の一つに浮上した。2020年調査の時点では、業務用の生成AIツールは一般的な選択肢として存在しておらず、わずか6年で、業務上の情報収集手段として半数の回答者が利用するまでに急速に普及した点は、ビジネス環境の大きな変化を示している。
第二に、紙媒体の低下が顕著である。書籍や雑誌などの紙媒体は34.0%から11.8%へと大きく減少し、情報収集チャネルとしての存在感を失いつつある。
第三に、リアル展示会が情報収集手段として大幅に伸長している。2020年時点で19.8%だった「リアル展示会」は、2026年調査では50.0%に達した。ただし、この数字の変化にはコロナ禍という特殊要因が大きく影響している可能性が高い。2020年当時は多くの展示会が中止・延期されており、情報収集手段としてリアル展示会を選択肢に挙げにくい状況にあった。したがって、単純な「展示会の価値の上昇」として読み取るよりも、「展示会が平常時の情報収集チャネルとして復権した」と捉える方が実態に近いと考えられる。
第四に、展示会とAI検索ツールが、ほぼ同水準(展示会50.0%、AI検索50.2%)で情報収集手段として並存している構造が確認できる。これは、両者が対立関係にあるのではなく、来場者が目的に応じて使い分ける「補完的な関係」にあることを示唆する重要なデータといえる。
■オンラインとリアルの関係性 ── 「代替論」から「使い分け論」へ
2020年調査では、コロナ禍の状況下でオンライン展示会への高い関心が示されていた。来場者調査53)では、完全オンライン展示会に「興味あり」が65.1%(「非常に興味がある(21.7%)」と「少し興味がある(43.4%)」の和)、オンラインとオフラインを併用した展示会への「興味あり」が69.9%(「非常に興味がある(25.6%)」と「少し興味がある(44.3%)」の和)に達していた。
完全オンライン展示会への関心
【図5-22】
図5-22:非接触で参加することできる、完全オンラインで行われる展示会についてどう思いますか。最多は「少し興味がある」の43.4%です。
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| 項目 | 割合 |
|---|---|
| 非常に興味がある | 21.7% |
| 少し興味がある | 43.4% |
| あまり興味がない | 28.3% |
| 全く興味がない | 6.6% |
また、出展者調査54)でも、完全オンライン展示会への「興味あり」が69.9%(「非常に興味がある(25.6%)」と「少し興味がある(44.3%)」の和)、併用型展示会への「興味あり」が83.0%(「非常に興味がある(32.1%)」と「少し興味がある(50.9%)」の和)に達していた。
オンラインとオフラインを活用した展示会営業マーケティングへの関心
【図5-23】
図5-23:オンラインとオフラインの両方を活用した展示会営業マーケティングについてどう思いますか。最多は「少し興味がある」の44.3%です。
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| 項目 | 割合 |
|---|---|
| 非常に興味がある | 25.6% |
| 少し興味がある | 44.3% |
| あまり興味がない | 21.7% |
| 全く興味がない | 8.4% |
2020年当時、オンライン展示会はリアル展示会の「代替」として期待される向きが強かった。自由回答でも「実際に体験していますが、過不足ないうえに、資料も保管できるのでいいことずくし。移動時間ももったいないので、この先主流になってほしい」という声がある一方、「実物を見ないと、やはりイメージ通りなのか不安」「会話がわからない。人気不人気ブースの感覚がわからない」といった不安の声も同時に存在していた。
2026年調査では、オンライン展示会そのものへの関心を直接尋ねる設問は設けていないが、前節(5-6節)で確認したとおり、AI時代における展示会の重要性が「高まる」と回答した来場者が67.9%に達し、その理由のトップは「オンライン商談だけでは構築しにくい信頼関係を対面で築けるから」(63.4%)であった。
また、Web・AI検索と展示会での対面情報の比較において、購買判断への影響が「対面情報の方が大きい」と回答した来場者は60.0%に達し(5-4節参照)、展示会後にWeb・AI検索で追加の情報収集を行う来場者も76.7%に上る(5-5節参照)。
2020年時点でのオンライン展示会への高い関心は、コロナ禍という特殊状況の中で生まれた「リアル展示会の代替を求める動き」という性格が強かった。それから6年を経た現在、オンラインはリアルの「代替」ではなく、リアルの前後をつなぐ「補完」として定着したと考えられる。
来場者は、オンラインで事前調査を行い、展示会で対面体験と信頼構築を行い、展示会後にオンラインで追加調査を行う──この連続的な行動パターンが、標準的な情報行動として浮上している。
■一次情報としての展示会の価値 ── 変わらないもの
2020年調査の自由回答には、次のような声55)が記録されていた。
オンライン展示会について、49歳、2020年来場者調査
目的外のブースや企業をみることで知見を深めたり、閃きを得ることがなくなる
同、47歳、2020年来場者調査
これらの声は、オンラインでは得難い展示会固有の価値──「実物の体感」「予期せぬ出会いによる知見・発見」──が、当時から認識されていたことを示している。
2026年調査では、来場者が「期待以上」と感じたブースの特徴として、以下の回答が上位を占めた(5-4節参照)。
・他社では聞けない導入事例や活用ノウハウに触れられた(42.2%)
・製品・サービスを実際に体験・操作できた(30.9%)
・業界の最新動向や未公開情報を入手できた(29.8%)
これらはいずれも、Web検索やAI検索では得られにくい一次情報・体験情報であり、2020年調査で示唆されていた「展示会固有の価値」が、形を変えつつも持続していることがうかがえる。
AI検索ツールが急速に普及し、情報収集手段としての存在感を増している状況下でも、「対面でしか得られない一次情報」に対する来場者の評価は保たれている。むしろ、デジタル上で得られる二次情報が氾濫する時代だからこそ、展示会でしか得られない一次情報の相対的価値は高まっているとする見方も成り立ちうる。
■まとめ ── 6年間の変化が示唆するもの
2020年調査と2026年調査の比較から浮かび上がる来場者像の変化は、以下のように整理できる。
第一に、来場の目的が「漠然とした情報収集」から「商談・比較検討・実物確認」へと、より目的志向の強いものへと変化しつつある可能性がある。
第二に、情報収集手段としてAI検索ツールが急速に台頭し、展示会と並ぶ水準にまで普及した。両者は代替関係ではなく、補完関係として使い分けられている。
第三に、オンラインとオフラインの関係性は、2020年当時の「代替論」から、2026年時点での「使い分け論」へと移行している。展示会はオンラインでの事前調査・事後調査と接続する対面接点として、購買プロセス全体の中で重要な役割を担っている。
第四に、こうした変化の中でも、展示会固有の価値──開発者との直接対話、実物の体験、他所では聞けない事例・ノウハウ──への評価は変わらず高い水準で維持されている。デジタル情報が氾濫する時代だからこそ、一次情報の提供場所としての展示会の価値は、むしろ相対的に高まっているとする見方が成立する余地がある。
これらの変化は、第6章で論じる「AI時代の展示会の位置づけ」、および第7章・第8章で展開する実践的示唆の基礎となる。
【脚注】
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000063081.html
※調査概要:展示会に参加したことのあるビジネスマン106名、インターネット調査、2020年10月12日~10月13日実施。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000063081.html
※調査概要:展示会に出展したことのあるビジネスマン106名、インターネット調査、2020年10月6日~10月7日実施。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000063081.html
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000063081.html
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000063081.html
※調査概要:展示会に参加したことのあるビジネスマン106名、インターネット調査、2020年10月12日~10月13日実施。
■ 本白書の引用・転載について
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出典:株式会社展示会営業マーケティング「展示会白書」

