本白書のために実施した2つの独自調査では、選択肢形式の設問とは別に、自由記述欄を設けました。これは、選択肢では拾いきれない現場の実感を、短い言葉のなかに見出したいと考えたからです。
ここで紹介するのは、寄せられた声のごく一部にすぎません。業界全体を代表するものでもありません。それでも、数値を見ただけでは伝わりにくい現場の温度感を、そのまま書き留めておきたいと思います。
来場者の声── 時間を尊重してほしい
来場者が期待外れと感じたブースの特徴として、以下のような声が寄せられました。
あとからずっと広告・営業メールが来る
会話が成り立たない
これらの声の背景には、「来場者の時間を尊重してほしい」という共通した感覚があります。
会話が成立しないブースで過ごす時間、過剰な呼び込みに晒される時間、展示会後まで続く無差別な営業メールを処理する時間。いずれも、来場者にとっては自分の業務時間を削られる要素として意識されているのです。
展示会後のフォローアップについても、「いつまでも案内が届く」という意見がありました。一方で、来場者調査では、「業務に関連する情報であれば目を通す」との回答が85.1%にのぼります(5-5節参照)。
来場者は、メールという手段そのものを拒んでいるわけではないのです。拒まれているのは、自分の業務や課題と関係のない、一方的な売り込みなのだと読み取れます。
ブースでの接点から展示会後のフォローアップまで、来場者体験の中核にあるのは、単に接触回数を増やすことではありません。出展者に求められるのは、来場者の課題との適合度と、自社の貢献可能性を見極めたうえで、接点を設計する姿勢なのだと改めて感じました。
来場者の声 ── AI時代に展示会が求められる理由
AI時代に展示会の重要性が高まると回答した来場者のなかから、2つの声をご紹介します。
AI情報は信用できないから
前者は、来場者調査における「AI検索では得られない、五感を使った製品体験や実物確認ができるから(42.7%)」という回答と重なります(5-6節参照)。後者は、AI生成コンテンツが氾濫する時代の実感を、短く言い切った声です。
いずれも二次情報が氾濫するほど、一次情報への信頼が相対的に高まるという構造を、たった一文で言語化してくれているように思います。
出展者の声 ── 「展示物の不足」
出展者側の自由記述からは、展示会出展の課題として、次のような声も寄せられました。
展示会は、出展企業にとって新製品や新サービスを披露する大切な機会でもあります。その一方で、展示会の開催時期と自社の製品開発サイクルが、必ずしも一致するとは限りません。開発中の商品が会期に間に合わない、あるいは製品サイズが大きすぎて会場に持ち込めない、搬入コストが大きい、実機を動かすための環境を会場で再現しにくい、といった事情によって、十分な展示が難しくなることもあります。しかし、完成品や実機をそのまま展示できない場合でも、打ち手はあります。試作品、縮小模型、内部構造がわかる断面模型、素材サンプル、動作原理を示す簡易デモ、導入前後の変化を示すパネルなどを組み合わせれば、来場者に伝わる展示体験を設計することは可能です。
また、システム、業務支援サービス、コンサルティングなどの無形商材では、そもそも実物として置ける展示物がないという課題があります。
しかし、無形商材であっても、展示物をつくることは可能です。たとえば、来場者が自社の課題を能動的に確認できる診断チャート、業務改善の流れを示すパネル、導入前後の変化を比較できるボード、来場者が考え、選び、答え合わせをするクイズ形式の展示などが考えられます。
重要なのは、展示物を「モノ」としてだけ捉えないことです。来場者が自社の状況に引きつけて理解できる仕掛けがあれば、それも展示会における立派な展示物です。
展示物のあり方を検討することは、展示会という限られた場で、自社の価値をどう可視化し、来場者の理解につなげるかを問い直すきっかけになります。見せるものが足りないときこそ、何を伝え、どのような体験を設計するのかが問われます。そこに、展示会における展示設計の本質があるのです。
小さな声が示唆するもの
自由記述は、統計的な代表性を主張するものではありません。しかし、短い言葉のなかには、選択肢の集計だけでは捉えきれない現場の実感が表れます。ここで取り上げた声は、第4章・第5章で見てきた数値データを別の角度から読み解くための手がかりにもなります。数字だけでは見えにくい本音に触れることで、展示会という場の可能性と課題が、より立体的に見えてくるのです。
■ 本白書の引用・転載について
本白書は、展示会産業の発展および出展企業・支援機関・主催者の実務改善に資することを目的として公開するものです。本白書に掲載している本文、図表、調査結果等は、出典を明記いただければ、社内資料、講演資料、報告書、記事、Webサイト等で引用・転載いただけます。
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出典:株式会社展示会営業マーケティング「展示会白書」
