展示会を失敗させないセミナー

第8章 展示会成果を高める実践ステップ|展示会白書

本白書に掲載されている統計グラフや表をまとめてご覧になりたい方は、展示会白書 図表一覧ページをご覧ください。

第8章 展示会成果を高める最新の実践ステップ
~「出せば売れる」から「設計して臨む」へ~

本章では、これまでの章で示してきた事実・データ・構造的示唆を踏まえ、出展企業が実践すべき具体的なステップを提示する。第7章までで論じた「展示会の価値が高まる構造的背景」「出展者と来場者のギャップ」を、明日から動かせる打ち手に落とし込むのが本章の役割である。

第6章・第7章で確認したとおり、AI時代において展示会の価値は、対面での信頼形成、五感を使った体験、観察と対話から得られる一次情報に集約される。したがって第8章で示す実践ステップも、この三つの価値をいかに意図的に設計するかを軸に置く。

ここで示す方法論は、単なる展示会出展の手順ではない。会期中の現場対応だけを改善しても、展示会の成果は十分に高まらない。展示会を単発の出展イベントとして捉えるのではなく、出展前の設計、会期中の対応、会期後のフォロー、次回出展への学びの蓄積までを含む、一連のプロセスとして捉える必要がある。

8-1. 基本姿勢の転換 ── 「出せば売れる」から「設計して臨む」へ

第4章・第5章・第7章を通じて見えてきたのは、展示会が「出せば成果が出るチャネル」ではなくなっているという構造である。来場者は、漠然と情報収集をするためだけに展示会へ来ているのではなく、実物確認、比較検討、業務課題の解決につながる情報を求めて来場している。にもかかわらず、出展企業側が「出展すれば自然に人が集まり、名刺を集めれば成果につながる」という前提のままで運営していれば、来場者の期待とのずれは避けられない。出展企業の半数が「費用対効果が見えにくい」を課題に挙げ(4-3節参照)、来場者の7割以上が出展企業のフォローに不満を抱えている(5-5節参照)。これらは個々の企業の努力不足というよりも、「出展すれば自然に成果が出る」という前提に基づく運営が、来場者の期待からずれ始めていることを示している。

このずれを解消するための第一歩は、出展準備の最初の段階で「売りたい気持ち」を一度脇に置くことである。出展を決めた瞬間から、出展者の頭の中は「どう売るか」「どうリードを取るか」で埋まりやすい。しかし、売りたい気持ちが前面に出るほど、来場者には売り込み感として伝わり、ブースに足を止めてもらいにくくなる。第5章で確認したとおり、来場者が「期待外れ」と感じたブースの特徴の1位は「売り込み感が強く、話を聞く気がなくなった」であった(5-4節参照)。

求められる基本姿勢の転換は、シンプルである。「自社が何を売りたいか」から、「来場者にとって何が役に立つか」へと、思考の起点を入れ替えることである。

この転換には二つの側面がある。一つは、来場者の課題や関心に響く、価値ある情報を届けるというポジティブな設計の視点。もう一つは、来場者として展示会を歩いてみれば自ずと見えてくる「これをされたら嫌だ」という体験の排除の視点である。どちらか一方では不十分で、来場者にとって「役に立つ場」を作ると同時に、「不快に感じる要素が取り除かれた場」として設計することが、成果につながるブース運営の前提となる。

なお、第4章で確認したとおり、出展企業において成果指標に対する意識は変化しつつある。しかしその意識が、現場のブーススタッフの声かけ、接客、リード選別、会期後フォローの行動設計にまで落とし込まれているかは別の問題である。展示会における課題は「何をKPIとするか」だけではなく、設定したKPIを現場の行動設計にまで落とし込めるかにある。

8-2. 出展前 ── 戦略設計フェーズ

■出展する展示会を選定する

展示会で成果を高めるためには、そもそもどの展示会に出展するかという選択が非常に重要である。

第2章で確認したとおり、近年は展示会の開催件数が増加しており、特にIT・AI分野などでは同一テーマの展示会が複数開催される状況も見られる。出展企業にとっては選択肢が広がる一方で、「どの展示会に出るべきか」という判断の重要性が高まっている。

また、直近1年間の出展回数は「1回」が10.4%、「2~3回」が30.6%、「4~5回」が29.3%である(4-7節参照)。展示会を単発のイベントではなく、年間を通じたマーケティング活動として活用している企業が多い。そのため、限られた経営資源をどの展示会に投下するかという判断は、展示会戦略の出発点となる。

このとき、来場者数や出展者数といった規模だけで出展先を決めることは必ずしも適切ではない。重要なのは、自社が役に立てる相手と出会える可能性が高い展示会かどうかである。

なお、この判断を出展企業が適切に行うためには、主催者側による来場者属性や来場目的の情報開示も重要である。第6章で述べたとおり、業種、企業規模、部門、役職、来場目的などの情報が具体的に示されることで、出展企業は自社の目的に合った展示会を選定しやすくなる。

来場者の業種、企業規模、部門、役職、来場目的などが、自社が想定する出会いたい相手と一致しているかを確認することが重要である。

展示会支援の現場では、成果を上げている企業ほど、「有名な展示会だから出る」のではなく、「自社が役に立てる相手と接点を持てる展示会だから出展する」という視点で展示会を選定している傾向が見られる。展示会選びは出展活動の出発点であり、その後の成果を大きく左右する重要な意思決定なのである。

■出展コンセプトの設計

出展前の最重要工程は、出展コンセプトの設計である。なお、実務上は、出展する展示会の選定と出展コンセプトの設計を行き来しながら検討することも少なくない。コンセプト設計の核は、次の4つの問いに順番に答えることにある。

第一に、誰に会いたいのか。業種・企業規模・部門・役職など、出展企業が想定する理想の出会うべき相手を具体化する。第二に、その人が日頃心の中で抱えている悩みは何か。ここで重要なのは、自社の商品・サービスで解決できるかどうかをいったん横に置いて考えることである。自社の解決領域に引きつけて悩みを設定すると、結局は売り込みのための枕詞になってしまう。第三に、その悩みに対して自社はどう役に立てるのか。そして、第四に、それには何の裏付けがあるのか。

これらの質問を考えないままブース設計に入ると、自社の言いたいことだけを並べた展示になりやすい。逆に、この4つの質問に答えることで、出展コンセプトは自然と固まっていく。出展コンセプトが定まれば、ブースキャッチコピー、展示物の選択や配置、スタッフの動き方、当日のトーク設計、会期後のフォローまで、すべての判断軸が一本に通る。

なお、出展コンセプト設計では「ワンブース・ワンアイテム・ワンターゲット」を原則としたい。一つのブースで複数の商材・複数のターゲットに訴求しようとすると、来場者にメッセージが届きにくくなる。第5章で確認したとおり、来場者は1日に多くのブースを回るため、ブースで交わした会話の詳細を正確には覚えていない。出展側も同様で、誰にどの商材の話をしたかが曖昧になりやすい。その結果、会期後のフォロー段階で、来場者が関心を示したテーマと異なる提案や情報が届き、第5章で確認した「ブースで話した内容と無関係な営業をされた」という不満につながる可能性がある。

複数の商材を扱う場合でも、それらを束ねる大きなテーマを設定し、ブース全体が一つの問いに答える形にすることが重要である。テーマが一本に絞られていれば、来場者はブースの前に立った瞬間に「自分ごと」として受け取りやすくなる。出展側にとっても、「誰に、どのような切り口で、何を伝えたのか」を会期後に再現しやすくなる。

つまり、出展コンセプトの明確化は、会期中の集客や接客だけでなく、会期後のフォロー精度を高めるための土台にもなるのである。

■出展コンセプトと一貫したブースキャッチコピー・ブース装飾

出展コンセプトを設計した後に重要になるのが、そのコンセプトを来場者に一目で伝えるためのブースキャッチコピーとブース装飾である。第5章で確認したとおり、来場者がブースに立ち寄る際に最も重視している要素は、「自社の業務課題に直結するキーワードや展示内容が目に留まったこと」であり、その割合は51.5%であった。これは、来場者が必ずしも派手な装飾や大きな演出に引き寄せられているわけではなく、自分の課題に関係があると直感できる言葉や展示内容に反応していることを示している。

また、第4章で確認したとおり、出展者調査では「自社ブースへの集客が難しい」が25.0%、「競合ブースとの差別化が難しい」が22.8%となっている。集客と差別化の双方に課題を抱える企業が一定数存在することからも、来場者に一目で伝わる訴求づくりの重要性がうかがえる。

その中心的な役割を担うのが、ブースキャッチコピーである。ブースキャッチコピーは、単なる目立つ言葉ではない。「誰の、どのような課題に対して、自社がどう役に立てるのか」を、通路を歩く来場者に瞬時に伝えるための入口である。来場者はブースの前でじっくり説明文を読むわけではない。多くの場合、歩きながら数秒で「自分に関係があるかどうか」を判断している。その短い時間で課題との接点を示せるかが、来場者がブースに立ち寄るかどうかを大きく左右する。

もちろん、ブースの見た目や演出も無視できない。第5章でも、そうした要素が来場者のブース訪問理由の一つになっていることは確認できる。しかし、第4章および第5章で見たとおり、出展者側では「ブースの見栄えや演出で来場者の目を引くこと」に注力している割合が37.5%にのぼる一方で、来場者側で「ブースの見た目や演出が目を引くこと」を訪問理由に挙げた割合は20.3%にとどまっている。ここには、出展者が重視する要素と、来場者が実際に立ち寄りの判断で重視する要素との間にずれがある。

さらに、出展者が展示会に感じている課題として、「出展コスト(ブース設営費・装飾費等)が高い」とする回答は39.7%にのぼる(4-3節)。だからこそ、ブース装飾は、単に見栄えを良くするためではなく、来場者に伝えるべき内容を明確にするために使う必要がある。清潔感があり、見やすく、入りやすいブースであることは重要である。しかし、装飾が過度になり、何を伝えたいブースなのかが見えにくくなれば本末転倒である。

限られた出展予算を成果につなげるためには、装飾を豪華にすることよりも、出展コンセプトから導いた課題解決のメッセージを、言葉と空間の両方で一貫して表現することが重要である。

■社内体制の整備

出展準備で見落とされがちなのが、社内体制の整備である。展示会は、担当者だけで完結する活動ではない。成果につなげるためには、営業、マーケティング、顧客対応に関わる担当者に加えて、業種や商材によっては開発・技術部門のメンバーも加えた複数の部門が関与するプロジェクトチームを編成することが望ましい。

中小企業では、十分な人員を確保することが難しい場合も多い。第4章で確認したとおり、出展企業の39.7%が「準備・運営にかかる社内の人員や工数が不足している」と回答していることもこれを裏付けている。しかし成果を左右するのは参加人数の多さではない。重要なのは、限られた人数であっても各部門の視点を持ち寄ること、判断基準を共有すること、その過程で共通言語を持つことである。

営業部門だけで出展を設計すると、会期後の商談化にはつながりやすい一方で、集客や情報発信の視点が弱くなることがある。マーケティング部門だけで設計すると、見せ方は整っていても、リード獲得そのものが目的化し、営業現場で商談化につなげにくい設計になることがある。開発担当者が関与しない場合には、来場者の具体的な技術的関心や運用上の不安に対応しきれないこともある。第5章で確認したとおり、来場者が「期待以上」と感じたブースの特徴の1位は「開発者やエンジニアから直接話を聞けた」であった。展示会の現場に技術者・開発者が参加するかどうかは、来場者体験を大きく左右する要素である。

なお、会期後の商談が具体化した段階で、設計、デザイナー、メンテナンス、SEなどの専門人材が営業担当者に同行する可能性がある場合には、あらかじめプロジェクトメンバーに含めておくことが望ましい。出展目的、想定ターゲット、来場者課題を検討する段階から専門的な視点を取り入れることで、ブースでの訴求内容や会期後の提案がより実態に即したものとなり、商談化後の受注率を高めることができる。

また、社内体制の設計は、出展ノウハウの属人化を防ぐうえでも重要である。第4章で見たとおり、出展者が感じている課題として、「展示会の担当者が定期的に異動・交代し、ノウハウが蓄積されにくい」という回答が14.2%あった。担当者個人に準備や運営を委ねる体制では、異動や交代のたびに経験がリセットされ、出展品質が安定しにくい。複数部門でプロジェクトチームを組み、準備プロセス、判断基準、会期中の対応、会期後のフォローまでを共有しておくことで、出展ノウハウを組織内に蓄積しやすくなる。

プロジェクトチームを統括するのは、事業部長クラス、規模によっては経営層が望ましい。第7章で述べたとおり、責任者が不在のまま各部門が自部門の都合だけで判断すると、リード獲得数、商談化、カスタマイズ案件数、顧客ニーズ収集数などが個別に最適化され、結果として展示会全体の成果につながりにくくなる。実際に、展示会出展の課題として「社内で展示会出展の意義や効果が理解されにくい」と回答した企業も14.6%あり、展示会の目的や成果指標を社内で共有することの重要性がうかがえる(4-3節参照)。

こうした部門ごとの判断の分散や社内理解の不足を避けるためには、部門ごとの部分最適を、出展目的に基づく全体最適へと統合する責任者が必要である。各部門の意見を調整し、何を優先し、何を捨てるのかを判断できる体制をつくることが、成果につながる社内体制設計の重要なポイントとなる。

■既存接点の棚卸しと招待設計

展示会は、新規見込み客との出会いの場であると同時に、既存接点を再起動する機会でもある。第4章で見たとおり、出展目的として「既存顧客との関係強化・深耕」を挙げた企業は45.5%にのぼる。また、来場者側を見ても、9割以上が少なくとも1社以上の訪問候補を事前に決めて来場していることは、第5章で確認したとおりである。

だからこそ、出展前には、休眠顧客、過去に接点を持った見込み客、停滞している商談、現在商談中の顧客を整理し、展示会への招待対象としてリスト化し、メールなどで案内することが求められる。

ただし、単に「出展します」「ぜひ当社ブースにお越しください」と知らせるだけでは十分ではない。第5章で確認したとおり、展示会への来場目的として「取引先などからの招待」は43.8%に達しており、既存顧客や取引先への案内は、来場のきっかけとして一定の効果を持つ。

一方で、ブース訪問の意思決定要因として「事前にメールやSNSで案内をもらっていたこと」は5.0%にとどまっている。この結果が示しているのは、招待や案内は来場のきっかけにはなっても、それだけで自社ブースへの訪問を決定づけるわけではないということである。来場者を動かすのは、案内を受け取った事実そのものではなく、その展示会に足を運び、自社ブースを訪れることでどのような情報や気づきが得られるのか、そして自社の課題解決にどのようにつながるのかが伝わることである。

そのため、事前案内では、まず展示会全体の価値を伝えることが有効である。関連製品やサービスを一度に比較できること、業界の最新動向を把握できること、著名人や専門家の講演を聴講できることなど、相手にとって来場する意味を示したうえで、自社ブースがどのような課題解決に役立つのかを添える。こうすることで、売り込み感を抑えながら、自然に自社ブースへの訪問理由をつくることができる。

展示会出展案内は、単なる営業連絡よりも自然な接点になりやすい。休眠顧客や停滞案件に対しては掘り起こしのきっかけとなり、商談中の顧客に対しては、実物展示やデモ、開発担当者との対話を通じて、受注に向けた判断を後押しする機会にもなる。

その前提として、社内に埋もれている名刺情報や過去の商談履歴を、会社として一元管理し、データ化しておくことが重要である。展示会への出展を、社内の顧客情報を整理する機会として活用することで、会期中の集客だけでなく、会期後の営業成果にもつながりやすくなる。

■最終成果から逆算してKPIを設計する

社内体制が決まったら、KPIを設計する。KPIは、得たい最終成果から逆算することがポイントである。第4章で確認したとおり、ROIを測定している企業では、単に獲得リード数を集計するだけでなく、商談化件数・商談化率、案件化数・見積提出数、受注金額・受注件数との紐づけまで追跡する動きが見られる。これは、展示会の成果を会期中の接点数だけで判断するのではなく、会期後の営業プロセスと結びつけて把握しようとする実務が広がっていることを示唆している。

この考え方に立つなら、KPI設計では、会期中に把握できる数字と、会期後に追跡すべき数字を分けて設計する必要がある。そのうえで、最終的にどの成果を得たいのかを明確にし、そこから逆算して必要な行動量を設定していく。

たとえば、上図のように受注3件を最終目標とすると、案件化からの受注率が20%であれば必要な案件化数は15件、商談からの案件化率が30%であれば必要な商談数は50件、アポイント率が16%であれば必要な名刺枚数は約300枚という形で逆算する。

また、BtoB商材は受注までの期間が長く、複数年単位で追わなければならないケースも多い。長い時間軸を前提に、指標ごとに達成期限を定めておくことも重要である。

KPI設計の例

【図8-1】

KPI設計の例(受注3件を最終目標とした逆算図)

注意したいのは、管理しやすさだけで指標を決めないことである。会期終了直後に把握しやすいという理由だけで、リード獲得数のみをKPIにすると、接点の量は見えても、その接点が商談化や受注につながるものだったのかを検証できない。第4章および第7章で見たとおり、リード数を過度に重視すると、会期中の行動が量の獲得に偏りやすくなる。KPIは、測りやすい数字ではなく、成果に近づいているかを判断するためのものとして設計する必要がある。後述する特典企画エントリー数は、実質的には次回面談への同意を意味するため、商談化数に近い指標として位置づけることができる。通常、商談化数は会期後にあらためて面談同意を得てはじめて計測できるが、特典企画へのエントリーがあれば、会期中にその同意を得ることができる。そのため、展示会後のフォローを待たずに、商談化に近い状態まで進められるKPIとして有効である。

KPI設計において最も重要なのは、設定した指標を現場の行動にまで落とし込むことである。KPIとして「商談化率」を掲げていても、展示会の会期中、現場のブーススタッフが「とにかく名刺を集める」行動を続けていれば、指標と行動は乖離したままになる。第7章で述べたとおり、出展目的や成果指標では商談化を重視しながらも、会期中の現場行動ではリード数の獲得が目的化しているケースは少なくない。KPIは経営層やマーケティング部門が管理する数字であるだけでなく、ブーススタッフの声かけ、接客、リード選別の判断基準として機能してはじめて意味を持つ。

たとえば、展示会後の初回商談に、そのリードを獲得したスタッフも営業担当者とともに同席する機会を設けることが有効である。ブーススタッフが、自分が獲得した名刺がその後どのような商談につながったのか、あるいは逆に商談化しなかったのはなぜかを当事者として体感することで、どのような声かけやブース対応が商談につながりやすいのかを実感を持って理解できる。営業部門にとっても、会期中、来場者とブーススタッフがどのような会話が交わし、どのような温度感でリードが獲得されたのかを知る機会になる。

このような接点を設けることで、展示会当日のブースでの行動と、展示会後の営業活動との間にある認識のずれが縮まりやすくなる。KPIが会期中の行動を変えるための指標として機能しはじめるのである。

8-3. 出展中 ── 現場オペレーション

■来場者を引き寄せる立ち位置と声かけ

当日のオペレーションは、来場者の動きや気持ちを想像しながら設計する。第4章で確認したとおり、出展者が当日、最も注力している活動は「多くの来場者に積極的に声をかけること」「ブースの見栄えや演出で来場者の目を引くこと」「名刺・リードを獲得すること」「チラシ・ノベルティを配布すること」などであり、量を追う活動や一方向的な働きかけに偏りやすい。来場者が嫌悪するのは、まさにこうした売り込み色の強い一方的な接触である。

来場者目線で見ると、大人数のスタッフが通路に向かって声を張り上げながらノベルティを配布する運営は、心理的な圧迫感を与えやすい。結果として、来場者をブースから遠ざけてしまう可能性がある。第5章で見たとおり、ブース訪問の意思決定要因として「ノベルティや特典があること」は11.4%にとどまっており、景品やプレゼントそのものが来場者を動かす主因とはいえない。ノベルティは、強引に足を止めさせるためではなく、自然な会話のきっかけや自社の専門性を伝えるツールとして位置づけるべきである。

また、ユニフォームを揃え、ブースの前に整列するスタイルにも注意が必要である。大人数で同じユニフォームを着用することは、出展側には一体感を醸成する効果があるが、来場者には近寄りがたさを与える可能性がある。来場者の立場から見えるブース像を、出展準備の段階で入念にシミュレーションしておきたい。

一方、通路側に自然に立ち、来場者がスタッフとブース展示の間を通る動線をつくれば、来場者の視線は展示物に向きやすくなる。視線が止まった瞬間に「何か気になる点はありましたか」と声をかけることで、押しつけ感の少ない接点を生み出すことができる。

このとき重要になるのが、来場者の視線に最初に入るキャッチコピーである。すでに述べたとおり、出展者が伝えたいことを一方的に掲げるのではなく、来場者の課題や関心を喚起する言葉を選ぶ必要がある。また、声をかけた後の導線も重要である。製品に触れてもらう、デモを体験してもらう、開発担当者や技術者につなぐといった流れをあらかじめ設計し、展示物やスタッフ配置に反映しておくことで、来場者の関心を自然に深めることができる。

■展示会でしか得られない体験を設計する

来場者は、わざわざ時間を使って展示会場に足を運んでいる。第5章で見たとおり、来場者の情報収集手段として、AI検索ツールとリアル展示会はほぼ同水準で利用されている。一方で、購買判断への影響という点では、展示会での対面情報を重視する回答がWeb・AI検索を上回っていた。これは、展示会がAI検索に単純に置き換えられる存在ではなく、AIやWeb検索で得た情報を、実物、対話、専門家の解説を通じて確認し、購買判断を前進させる場として機能していることを示している。

だからこそ、ブースではWebサイトやAIでは得られない体験を提供することが重要である。実機を操作する、素材に触れる、試食・試飲をする、使用感を確かめるなど、身体を動かし五感を使う体験は、展示会場だからこそ提供できる価値である。

第5章で確認したとおり、来場者がブースに立ち寄る際に重視する要素として、「製品・サービスの実物展示やデモ体験ができること」は40.1%にのぼった。また、期待以上だったブースの特徴としても、「製品・サービスを実際に体験・操作できた」が30.9%を占めている。

一方で、SaaS、業務支援サービス、コンサルティングなどの無形商材では、実物展示や五感に訴えるデモが難しい場合もある。その結果、展示内容がWebサイト上の説明やデモ動画と大きく変わらず、来場者にとって印象に残りにくくなることがある。実際、第5章では来場者の不満として「展示内容がWebサイトで得られる情報と大差なかった」が35.1%にのぼっている。

しかし、無形商材であっても、来場者が能動的に関与できる体験を設計することは可能である。たとえば顧客管理システムが商材の場合、「価値ある情報を提供してくれるなら、自分の個人情報を差し出してもよいと考えているビジネスパーソンの割合は?」といった商材の関連する問いと3択の回答候補を表面に、正解を裏面に記載したボードを展示台に置いておく方法が考えられる。来場者は答えを予想し、ボードを裏返して確認する過程で、自社の感覚と実際のデータとの差に気づく。このように、機能説明をそのまま行うのではなく、来場者が考え、選び、答え合わせをする体験を組み込むことで、無形商材であっても記憶に残るブース体験をつくることができる。展示会における体験設計は、大掛かりなデモ機や実物展示に限られない。来場者の小さな能動的行動を促す工夫によっても、ブースは「Webと変わらない場所」から「展示会でしか得られない体験の場」へと変わる。

また、体験設計は、必ずしも身体を動かすことだけに限定されない。第5章で確認したとおり、来場者が期待以上と感じたブースの特徴の中で最も多かったのは、「開発者やエンジニアから直接話を聞けた」ことであった。

つまり、開発者、技術者など専門性の高いスタッフとの対話そのものも、展示会でしか得にくい体験価値である。

営業担当者だけでは答えきれない技術的な質問や、開発背景、導入時の工夫、現場での使われ方について直接聞けることは、来場者にとって大きな価値になる。

一方で、来場者の質問に的確に答えられなければ、期待外れにつながる。第5章で見たとおり、期待外れだったブースの特徴として「質問しても的確な回答が得られなかった」は40.1%にのぼった。来場者は、Webサイトに書かれた情報を聞きに来ているのではない。自社の状況に照らして導入できるのか、どのような効果があるのか、どのような制約があるのかを確認したいというニーズを持っているのだ。

ただし、ブースですべての問いに答えきる必要はない。限られた会期中に、詳細な仕様確認や個別条件に応じた提案まで完結させることは難しい。重要なのは、その場で詳細な答えを出し切ることではなく、「この会社は我々の問いに対する答えを持っていそうだ」と来場者に感じてもらうことである。そこまで伝われば、来場者は「後日面談して、詳しく確認したい」と感じ、次の接点につながりやすくなる。展示会における体験設計は、会場内での理解を深めるだけでなく、会期後の対話へ進む理由をつくるものでもある。

■ブースでは深掘りよりも、次回接点への橋渡しを優先する

一見すると、来場者一人ひとりと深く対話することが理想のように思える。しかし、会期中は必要以上に深い対話を行おうとしすぎないことも重要になるケースがある。第5章で見たとおり、展示会では、来場者は短時間で複数のブースを回り、多くの情報に触れる。そのため、どのブースでどのような話をしたかを詳細に記憶しているとは限らない。同様に、出展者側も多数の来場者に対応するため、ブースで交わした会話内容を一人ひとり詳細に記録しきることは容易ではない。

また、限られた会期中に詳細なヒアリングを行おうとすると、1人あたりの接客時間が長くなり、結果として他の来場者への対応機会を失う可能性がある。期待外れだったブースの特徴として「ブース担当者が忙しそうで声をかけにくかった」も26.4%にのぼっている(5-4節参照)。ブースでは、目の前の来場者に丁寧に対応することと、他の来場者が声をかけやすい余白を残すことの両立が求められる。そのためには、一次対応役と詳細対応役のようにスタッフの役割を分けることも、接客設計の一部である。

展示会場では、来場者が必ずしも深い相談を前提にブースを訪れているわけではなく、まずは情報収集や比較検討の一環として立ち寄っている場合も多い。したがって、ブースでの対話は、来場者の関心の方向性を把握し、自社が役に立てる可能性が高い相手かどうかを見極める場として位置づけることが重要である。詳細な課題ヒアリングや具体的な提案は、展示会後の個別商談で行う方が効率的であり、会期中は「関心の把握」と「次回接点への橋渡し」に重点を置くべきである。

■見込度は来場者への貢献可能性で判断する

ブース対応で避けたいのは、来場者の見込度を判断しようとするあまりBANTの項目を細かく確認しすぎることである。BANTとは、予算(Budget)、決裁権(Authority)、必要性(Need)、導入時期(Timeline)を確認し、受注確度を判断する考え方である。展示ブースという初対面かつ短時間の場では、この考え方をそのまま適用することには注意が必要である。

BANTの各項目はいずれも、売り手側にとっては重要な情報である。しかし、来場者にとっては、そのすべてを展示会ブースで答える必然性が高いとは限らない。特に、予算、導入時期、決裁権といった情報は、初対面の段階で質問されると、来場者に「営業対象として選別されている」という印象を与えやすい。

ブースでまず確認すべきなのは、BANTでいうところのN、すなわち必要性である。言い換えれば、来場者が何に困っているのか、どのような課題や関心を持っているのかを把握することである。その困りごとに対して自社が役に立てる可能性が高いと判断できるなら、その来場者は「今すぐ客」候補として、優先的にフォローすべき相手である。

一方で、予算、導入時期、競合比較状況、決裁権といった情報は、展示会後の商談の中で確認すればよい。展示会における見込度判断は、来場者の課題と自社の貢献可能性の一致度によって行うべきである。そして、貢献可能性が高いと判断できた来場者には、会期後に先送りせず、できるだけ早く次の接点を設計することが重要である。

■当日中に次の接点を取り付ける ── 特典企画の活用

第4章で確認したとおり、出展者が展示会当日に注力する活動の中で、「来場者と展示会後の商談の約束を取り付けること」は6.9%にとどまっている。会期後の具体的な接点づくりまで設計できている企業はまだ多くない。しかし、BtoB商材の多くが展示会のその場で受注に至るわけではないことを踏まえると、これでは不十分である。

見込度の高い来場者、すなわち自社が役に立てる可能性が高いと判断できた来場者には、できるだけ早くフォローを行う必要がある。第5章で見たとおり、展示会後のフォローに不満を感じた内容として、「フォローのタイミングが遅すぎた(展示会から数週間以上後)」は29.6%にのぼる。もちろん、すべての来場者に即時の営業連絡をすればよいわけではない。しかし、自社が貢献できる可能性が高い来場者については、会期後に持ち越すのではなく、当日中、さらに言えばブース接客のその場で、次の接点を取り付けておきたい。

そのための重要な施策の一つが、ブースでの特典企画への誘導である。これは、前述した「特典企画エントリー数」を、商談化に近いKPIとして捉える考え方とも連動する。なお、ここでいう特典企画は、ノベルティや景品を配布して来場者を集める施策ではなく、来場者にとって役立つ次の接点を設計することである。たとえば、無料診断、検証用サンプル提供、セミナーへの招待、工場見学の案内などが該当する。

一通りブース接客が終わった後、来場者の関心テーマに応じて「○○診断を実施しています。通常は有償で提供している内容ですが、今回は先着30社に限り無料で対応します」といった形で案内し、その場でエントリーを促す方法が考えられる。

展示会後に改めてアポイントを取得しようとしても、来場者の関心や会場での高揚感は時間の経過とともに低下しやすい。そのため、会期中の接点が生まれた段階で、次回接点への同意を得ておくことが重要である。ブースでの対話を単なる情報提供で終わらせるのではなく、会期後の面談につなげる導線を設計しておくことで、会期後のフォローを、改めてアポイントを依頼する連絡ではなく、すでに合意された次回接点の確認として進めやすくなる。

特典企画にエントリーした来場者は、少なくとも自社の課題解決に一定の関心を示した層であり、一般的な名刺獲得リードよりも見込度が高い可能性がある。したがって、会期後のフォローでは、特典企画への参加意思を示した来場者を優先度の高いリードとして位置づけて対応することが望ましい。

8-4. 出展後 ── 成果につなげるフォロー

■リードを分類してから動く

会期後のフォローにおいて重要なのは、すべてのリードに同一の対応を行わないことである。展示会で獲得した名刺やスキャンデータは、獲得した時点では一様に見える。しかし実際には、その中に「今すぐ客」「そのうち客」「対象外」が混在している。ここでいう「今すぐ客」とは、単に購入時期が近い来場者を指すのではない。来場者の課題が明確であり、自社が役に立てる可能性が高く、早期に次の接点を設けるべき相手を指す。一方、「そのうち客」とは、課題や関心はあるものの、現時点では具体的な商談に進めるよりも、情報提供を通じて関係を育てるべき来場者である。このように、リードの状態は一様ではないためブース接客直後から会期後の早い段階にかけて、来場者の関心の方向性、課題の具体性、自社の貢献可能性をもとに、優先順位を設定する必要がある。

フォロー設計の出発点は、獲得リード数そのものではない。来場者が何に関心を示し、どのような課題を認識しており、自社がどの程度役に立てるのかを基準に、対応方針を分けることである。

■フォローの質を量で代替しない

展示会後のフォローでは、量的な接触を増やすことが、そのまま成果につながるわけではない。「今すぐ客」に対しては、ブースで把握した課題を踏まえ、できるだけ早く次回接点を設定し、具体的な提案につなげることが求められる。特に、自社が役に立てる可能性が高いと判断できた来場者には、ブース対応中に特典企画へのエントリーを促す。エントリーがない場合でも、当日中に電話し、アポイントを設定することが望ましい。来場者の関心が高まっているタイミングを逃さず、次の対話につなげることが重要である。

一方、「そのうち客」に対しては、短期的な受注を急ぐのではなく、業務に資する情報提供を継続し、関係性を育てることが重要である。また、「対象外」に対しては、過度な営業工数をかけない判断も必要となる。

この濃淡の設計を行わないまま大量のフォローを実施すると、来場者との距離をかえって遠ざける可能性がある。

第5章で確認したとおり、来場者側には「名刺交換しただけなのに強引な売り込みをされた」、「興味のない製品・サービスのメールが大量に届いた」といった不満が存在する。

来場者の関心や立場に合わない接触が繰り返されることで、展示会で生まれた接点が、印象を損ねる逆効果にならないように注意する必要がある。

■「何を話したか」だけでなく「何が役に立つか」を起点にする

会期後のフォローでは、ブースで交わした会話内容の詳細にとらわれすぎず、来場者にとって有用な情報を届けることを意識したい。第5章で見たとおり、展示会来場者は、1日に複数のブースを訪問している。そのため、個々ブースでの会話内容を詳細に記憶していないことも多い。一方で、自社の業務や課題に関連する情報であれば、継続的な情報提供を受け入れる可能性は高い。

月に1回程度のメルマガや情報提供について、来場者の85.1%が「業務関連情報なら目を通す」と回答している(5-5節参照)。この結果は、会期後のフォローにおいて、単なる営業連絡ではなく、業務上の判断や課題解決に資する情報提供が重要であることを示している。

したがって、フォローの起点は「展示会で何を話したか」だけに置くべきではない。むしろ、「この来場者にとって、今後どのような情報が役に立つのか」を見極めることが、関係継続の前提となる。

■メール配信内容の質を、頻度より優先する

現時点では商談化に至らないものの、将来的な関係構築が期待できる「そのうち客」にどのように対応するかも、展示会後のフォローにおいて重要なテーマである。「そのうち客」へのフォローにおいて重要なのは、短期的な商談化を急ぐことではなく、継続的な情報提供を通じて関係を育てることである。

BtoBの商談は、課題に気づいていても優先順位が上がらない、必要性を感じていても日々の業務に追われて後回しになる、といった理由で停滞しやすい。こうした状態を動かすうえで、メール配信は有効な手段となる。メールは多くのビジネスパーソンが日常的に確認する接点であり、担当者の異動や交代があった場合にも連絡先として社内で引き継がれやすいからである。

にもかかわらず、実施中のBtoBマーケティング施策として「メールマーケティング・メルマガ配信」を挙げた出展者は34.9%にとどまった(4-6節参照)。これは、展示会後の継続接点づくりにおいて、改善の余地が大きいことを示している。

ただし、メールは送ればよいというものではない。重要なのは、配信頻度よりも内容の質を優先することである。

もっとも、その内容を難しく考えすぎる必要はない。前述した出展コンセプト設計における4つの問いのうち、2番目の問いである「来場者が日頃心の中でつぶやいている悩み」に対して、解決の一助となる情報を届ければよいのである。来場者の課題に寄り添い、売り込みと受け止められない形でわかりやすく伝えることが重要である。

製品紹介やキャンペーン案内に偏った配信は、来場者にとって売り込み色の強い接触として受け止められやすい。

特に、展示会で名刺交換をした直後の段階では、まだ信頼関係が十分に形成されていないことも多い。その状態で一方的な案内を重ねると、接点を維持するどころか、配信停止や関係離脱を招く可能性がある。

展示会後のフォローは、短期的な受注獲得だけを目的とするものではない。来場者との接点を維持し、将来的な商談機会につなげるための活動である。

この意味で、会期後のフォローは「営業の後追い」ではなく、展示会で生まれた接点を中長期的な商談機会へ育てる関係形成プロセスと位置づけるべきである。

8-5. 成果測定と学びの蓄積

■ROI測定 ── 費用対効果を「見える化」する

展示会出展において、多くの企業が課題として感じているのが、費用対効果の見えにくさである。第4章で確認したとおり、出展者が展示会に感じている課題として最も多かったのは「費用対効果が見えにくい」であり、その割合は50.0%に達した。また、ROI測定を実施している企業においても、その測定方法は、商談化件数・商談化率、案件化数、獲得リード数、受注金額・受注件数との紐づけなど、企業によってばらつきが見られた。

この結果が示しているのは、展示会のROIを測る必要性が認識されながらも、何をもって成果とするのかが十分に定まっていない企業が多いということである。

ROI測定は、会期後に初めて考えるものではない。本来は、出展前の段階でKPI、記録方法、フォロー管理、情報活用の仕組みをあらかじめ整えておく必要がある。ただし、その成果が実際に見えてくるのは、会期後の商談化、案件化、受注、顧客理解、次回改善の段階である。そのため本節では、展示会後に出展成果をどのように確認し、次の営業活動や事業活動へつなげるかという観点からROI測定を整理する。

展示会のROIを考える際に注意すべきなのは、会期直後の受注金額だけで判断すべきではないという点である。特にBtoB商材では、展示会で出会った来場者が、即時発注するケースは極めて少ない。展示会をきっかけに商談が生まれ、比較検討や社内稟議を経ながら段階的に進んでいく。商材や案件規模によっては、受注に至るまでに数年単位の時間を経るケースもある。

第5章で見たとおり、展示会で得た情報が自社の購買意思決定に影響を与えたことがある来場者は約8割にのぼる。

展示会は、単なる情報収集の場ではなく、比較検討や購買判断に影響を与える場でもある。だからこそ、ROIを考える際には、会期直後の受注金額だけでなく、来場者の意思決定がどのように前進したかも含めて捉える必要がある。

したがって、展示会ROIは、短期の受注金額だけでなく、リード、商談、案件、受注までのプロセス全体で捉える必要がある。具体的には、リード数、有効リード数、商談化件数、案件化件数、受注件数、受注金額を継続的に追跡することで、展示会で獲得した接点が、その後の営業プロセスにおいてどこまで進展しているのかを把握しやすくなる。

ここで重要なのは、単に数字を集計することではない。展示会で獲得したリードが、その後どのような流れで商談化し、どの段階で止まり、どの条件がそろうと受注につながるのかを確認し、次のプロセスへの転換率を高めるための改善を継続することである。

たとえば、名刺獲得数は多いのに商談数が少ない場合は、ブースで集客している来場者の質や、会期後フォローの設計に課題がある可能性がある。この場合は、まず、自社が役に立てる可能性が高い属性の来場者に刺さるよう、ブースキャッチコピーや展示内容、声かけの内容を見直す必要がある。そのうえで、ブース接客後に次回接点へ進みやすくする特典企画を用意し、その場で診断、検証用サンプル提供へのエントリーを促すといった改善策が考えられる。

一方、商談までは進んでいるものの案件化に至らない場合には、展示会場で高まった期待に対して、後日の提案内容が十分に応えられていない可能性がある。この段階では、商談時に他社事例や導入後の成果イメージを具体的に示し、見込み客が自社に導入した場合の変化を想像できるようにすることが求められる。

さらに、案件化しているにもかかわらず受注につながらない場合は、価格、導入時期、競合比較、社内決裁プロセスへの対応に課題がある可能性がある。この場合、営業担当者だけに任せるのではなく、上司や技術担当者の同行、決裁者向け資料の整備、稟議を通しやすくする費用対効果資料の作成などを営業プロセスに組み込むことが有効な対策となる。

また、展示会の費用には、ブース出展料や装飾費だけでなく、準備にかかる社内工数、スタッフの人件費、搬入・搬出費、配布物制作費、会期後フォローにかかる営業工数も含まれる。これらをすべて厳密に金額換算することが難しい場合でも、少なくとも主要な費用項目を把握しておくことは重要である。費用の全体像が見えなければ、得られた成果が投資に見合っているかを判断しにくいからである。

第4章で見たとおり、展示会には、新規顧客獲得や新規案件受注などの直接的な営業成果だけでなく、休眠顧客の掘り起こし、既存顧客との関係強化、開発担当者による市場ニーズの把握、業界内での認知向上、競合動向の把握といった幅広い価値がある。したがって、ROIを考える際にも、直接的な営業成果だけに限定せず、展示会が事業活動に与える影響を複数の観点から捉える必要がある。

具体的には、営業成果指標として、獲得リード数、商談化件数、案件化件数、受注件数、受注金額を追う。一方、将来の商談機会や認知向上につながる指標としては、休眠顧客や停滞案件との再接点数、既存顧客の上位職との関係構築数、メディアや業界著名人との接触数などがある。これらは短期の売上には表れにくいものの、中長期的には事業全体に影響を与える成果として、比較的数値化しやすい。

さらに、展示会には、数値だけでは捉えにくい重要な価値もある。たとえば、開発担当者が会場で把握した市場ニーズ、来場者との対話から得られた顧客課題、競合企業の訴求内容、ライバル企業の今後の展開方針につながる情報などである。これらは、展示会の営業現場で来場者や競合の動きを直接観察し、対話するからこそ得られる一次情報であり、Webなどの公開情報やAIによるディープリサーチだけでは把握しにくい価値を持つ。

だからこそ、展示会で得られた一次情報を、担当者個人の感想や気づきで終わらせてはならない。会場で得た顧客ニーズ、競合の訴求、業界全体の関心テーマを具体的な記録として残し、組織として蓄積・共有し、次回以降の製品開発、販路開拓、営業提案、競合対策に再利用できる状態へ転換することが重要である。

なお、第4章および第5章で確認したとおり、「業界トレンドや競合動向を短時間で一度に把握できること」を展示会の価値として挙げた割合は、出展企業、来場者のいずれにおいても高いとはいえなかった。これは、その価値が重要でないというよりも、商談件数や受注金額のように成果として認識・測定されにくい性質を持つためだと考えられる。

ここまで見てきたように、ROI測定は、展示会を評価するための計算作業にとどまらない。営業プロセス上の改善点を明らかにし、会場で得た一次情報を組織の資産として蓄積・活用するための診断指標でもある。したがって、展示会ROIは、出展後に慌てて計算するものではない。出展前の段階で成果定義とKPIを設計し、会期中の記録、会期後のフォロー管理、一次情報の活用までを一体で準備しておく必要がある。これによってはじめて、展示会出展が営業成果や事業成果にどのようにつながったのかを検証できる。

■出展で得た学びを記録として残す

出展者調査では、年間出展回数「2~3回」が30.6%で最多となった。一方で「1回」とする回答も1割を超えた。(4-7節参照)出展頻度に違いはあっても、重要なのは展示会をその場限りのイベントとして終わらせないことである。

年に複数回出展する企業であれば次回出展へ、年1回出展する企業であっても翌年の同じ展示会へ、会場で得た来場者の反応、関心を集めた訴求、反応が弱かった展示、競合ブースの動き、会期後の商談化状況を引き継ぐ必要がある。出展ごとの学びを記録し、次回に活かせる状態にしておくことが、展示会の成果を継続的に高める土台となる。

また、第4章で確認したとおり、出展企業の14.2%が「展示会の担当者が定期的に異動・交代し、ノウハウが蓄積されにくい」ことを課題として挙げている。展示会の経験が個人の記憶にとどまっている限り、次回出展時に同じ失敗を繰り返す可能性が高くなる。

そのため、出展後には、担当者だけで振り返りを行うのではなく、展示会プロジェクトチームとして、出展結果を整理することが重要である。具体的には、コンセプト、KPI、実績、来場者の反応、うまくいった点、課題として残った点を出展レポートとして整理する。この記録を翌年の出展準備の起点として活用することで、展示会出展は単発のイベントではなく、継続的な改善活動へと変わる。

展示会成果の差は、一度の出展だけで生まれるものではない。出展のたびに学びを蓄積し、次回の設計に反映できるかどうかが、中長期的な成果の差を生むのである。

8-6. 展示資産の継続活用

展示会で得た学びは、記録として残すだけでなく、展示物や体験設計の継続活用にもつなげることで、次の顧客接点を生み出す力を持つ。展示会の活用シーンは、主催者が用意した会場での公式な出展に限定されるものではない。出展に向けてつくり込んだ展示物、体験設計、接客ノウハウは、会期終了後も継続的に活用できる営業資産である。展示会を一過性のイベントとして捉えるのではなく、そこで整備した資産を複数の顧客接点に展開することで、展示会投資の効果を高めることができる。

取り組みやすい方法の一つが、自社社屋や会議室での展示資産の継続活用である。展示会で制作したブース展示、体験設計、説明パネルなどは、会期終了後に倉庫で保管されることが少なくない。しかし、これらは本来、来場者の関心を引き、理解を促し、行動を引き出すために設計された資産である。

会議室や応接室に常設すれば、来訪した顧客との商談においても活用できる。実物に触れる、動作を確認する、クイズに答える、といった体験は、机の上での説明だけでは伝わりにくい価値を補完する。特に、製品の機能や導入効果が言葉だけでは伝わりにくい商材においては、展示資産を用いた体験型の説明が有効である。また展示資産は、単独で活用するだけでなく、工場見学や社内セミナー、顧客向け勉強会と組み合わせることで、さらに活用範囲を広げることができる。たとえば、工場見学の導入部分で展示会用の説明パネルを活用すれば、見学前に製品や技術の概要を理解してもらいやすくなる。セミナー後の個別相談の場に展示物を設置すれば、参加者が具体的な質問をしやすくなる。客先訪問の際には説明しきれない内容も、体験を伴う場を設計することで、理解と納得を促進できる。

このように、展示会で制作した資産を他の顧客接点へ転用することは、展示会投資の費用対効果を高める打ち手となる。展示会で磨き上げた見せ方、伝え方、体験させ方を、会期後の営業活動にも展開していく発想が重要である。

展示会で成果を生み出す取り組みは、会期中の接客技術やブースづくりだけで決まるものではない。出展前の設計、会期中の体験と対話、会期後の関係づくり、一次情報と展示資産の活用までを含む一連のプロセスである。

展示会をこのように捉えることで、出展は一過性のイベントではなく、営業と事業を前進させる仕組みへと変わる。

8-7. 展示会活動を継続的に活性化する仕組みをつくる

展示会の成果は、ノウハウを知っているかどうかだけで決まるものではない。出展前の準備から会期中のブース対応、顧客ニーズや競合動向などの一次情報の収集、会期後のフォロー、商談、受注に至るまで、一連の活動を継続して実行できるかどうかが成果を大きく左右する。

そのためには、KPIを管理するだけでなく、組織の行動を活性化する仕組みづくりも重要である。その方法の一つがゲーミフィケーションである。ゲーミフィケーションとは、ゲームの要素を活動に取り入れ、参加意欲や行動継続を促す考え方である。

たとえば、名刺獲得1件を1ポイント、それが出会いたい相手にぴったり合致する場合はプラス3ポイント、特典企画へのエントリー獲得を5ポイント、初回商談実施を3ポイント、案件化を5ポイントといった形で、成果につながる行動をポイント化する。また、「見逃していた顧客ニーズを発見した」「競合企業の新たな取り組みを把握した」「商品開発のヒントにつながる示唆を得た」といった一次情報の収集もポイント対象にすることで、展示会を受注獲得だけでなく、中長期的な競争力向上の機会としても活用しやすくなる。これらを個人戦だけでなくチーム戦としても運用することで、スタッフ同士の協力や学び合いを促しやすくなる。

重要なのは、自社が求める成果に近い行動や価値ある一次情報の獲得ほど高いポイントを設定することである。

これにより、展示会活動を単なる活動量の管理にとどめず、質を伴った行動へと導きながら、継続性とチーム全体の推進力を高めやすくなる。

8-8. 中小企業が明日から取り組めるアクションプラン

最後に、展示会に出展する中小企業が自社の規模や予算に応じて、段階的に取り組むことができる実践項目をチェックリストとして整理する。チェックリストは、本章で示した実践項目に対応している。

展示会の成果改善は、大規模な予算投下や大掛かりなブース装飾から始める必要はない。むしろ重要なのは、出展の目的、来場者理解、会期後の接点設計を社内で共有し、次回出展に向けた改善の循環をつくることである。

なお、以下のチェックリストは、本調査結果と展示会支援の現場知見を踏まえた実践項目であり、すべての企業に一律に当てはまるものではない。自社の出展目的、商材、出会いたい相手、営業体制に応じて取捨選択し、具体化して活用されたい。

【出展前】戦略設計フェーズ

チェックNo.アクションポイント
 1プロジェクトチームを編成する営業・マーケティング・開発の3部門が中核。開発担当者の会期参加も検討。統括責任者(経営者、事業部長クラス)を明確にする。後に営業同行の可能性がある部門はチームに参加することが望ましい。
 2来場者目線会議を開く展示会出展を来場者視点で検討する。訴求内容・展示物・動線・接客対応が来場者にどう受け止められるかをスタッフ全員が自分が来場者になりきって検証する。
 3出展する展示会を選定する来場者属性や来場目的を確認し、自社が役に立てる相手と出会える展示会を選ぶ。来場者数や知名度だけでなく、業種・企業規模・部門・役職などの一致度を確認する。
 4出展コンセプトを4つの問いで整理し、ワンブース・ワンアイテム・ワンターゲットに絞る➀誰に会いたいのか ➁その人の悩みは何か(自社解決領域を一旦外して考える) ➂自社はどう役立てるのか ➃その裏付けは何かを1枚のシートに整理し社内共有。複数商材を扱う場合も束ねる大テーマを設定し、ブース全体が一つの問いに答える構造にする。
 5出展コンセプトと一貫したキャッチコピー、ブース装飾を設計する練り上げた出展コンセプトを、ブースキャッチコピー、ブース装飾、展示物、動線、体験設計に落とし込み、来場者が自分の課題と結びつけて理解できるブースを設計する。派手な装飾よりも、出展コンセプトに基づき「誰のどんな課題を解決できるのか」を一目で伝えることを重視する。
 6既存接点を棚卸しし、来場理由を添えた招待メールを送る休眠顧客・過去見込み客・停滞商談・商談中顧客を整理しリスト化しメール送信する。「展示会に出展しますのでぜひ」は自然な接点になりやすい。社内の名刺・商談履歴を一元データ化する機会としても活用する。
 7KPIを最終成果から逆算して設計する受注目標→案件化数→商談化数→名刺数の順で逆算。「当日中に把握できる指標」と「後追いで見る指標」に分けて設計する。特典企画エントリー数は、会期終了直後に把握可能な商談化数に近い先行指標として活用する。
 8会期後フォローの設計を先に決める「今すぐ客」「そのうち客」「対象外」の3分類ごとに対応方針・初回接点までの目安日数・配信情報の方向性を会期前に決めておく。来場者の課題と自社の貢献可能性の一致度で優先順位を判断する。

【出展中】現場オペレーション

チェックNo.アクションポイント
 9来場者が展示物に視線を向ける動線をつくるスタッフが通路側に自然に立ち、来場者の視線が展示物に向かう動線をつくり、自然な声かけを行う。整列・大声・ノベルティ配布は心理的圧迫感を生みやすいので注意する。
 10展示会でしか得られない体験を設計する「WebやAIと変わらない展示」にならないように、実機操作、素材への接触、試食・試飲など、来場者が身体を動かし五感で理解できる体験を用意する。無形商材でも、クイズ、診断など能動的に考え、選び、答え合わせできる仕掛けを組み込む。
 11ブース接客の目的を「課題把握」と「次回接点づくり」に絞る詳細ヒアリングや提案は会期後の商談に行うと割り切る。1人の接客時間を長くするより、来場者の興味・関心、課題を把握して「今すぐ客」か「そのうち客」か「対象外」かを見極めることを優先する。
 12見込度を「役に立てる可能性」で判断するBANTをブースで細かく確認しすぎない。まずは来場者の課題や関心、自社が役に立てる可能性を確認する。予算・導入時期・決裁権は、後日の商談で確認すればよい。
 13特典企画へのエントリーを会期中に取り付ける「先着◯社限定・無料診断」など、接客終了時点で次回接点への同意を得る。会場での関心・高揚感は時間とともに低下するため、その場でエントリーを促す。

【出展後】成果につなげるフォローと改善・資産化

チェックNo.アクションポイント
 14リードを分類して優先順位を決める「今すぐ客」→当日中にアポを取り具体的提案へ。「そのうち客」→業務に資する情報提供を継続。「対象外」→過度な営業工数をかけない。全員に同一対応しない。
 15「何が役に立つのか」を起点にフォローするブースで話した内容の再現に固執しすぎず、来場者にとって今後有用な情報を届けることを優先する。製品紹介・キャンペーン案内に偏った情報提供は関係離脱を招くことを肝に銘じる。
 16メール配信は頻度より内容の質を優先する「そのうち客」には、売り込みではなく業務に役立つ情報を継続的にメール配信する。出展コンセプト4つの問いの2番目「来場者が日頃心の中でつぶやいている悩み」の解決に役立つ内容を送付する。
 17ROIを短期・中長期・一次情報の3視点で評価する短期指標は、有効リード数、商談化件数、案件化件数、受注件数、受注金額で評価する。中長期指標は、休眠顧客との再接点、上位職との関係構築、メディア・業界関係者との接触などで評価する。さらに、顧客ニーズ、競合動向、業界トレンドなど、会場で得た一次情報も記録・共有する。
 18出展レポートに成果・課題・改善点を記録する出展コンセプト・ブースキャッチコピー、KPI設定、実績、来場者の反応、一次情報の収集など、うまくいった点・課題を整理し、次の出展準備の起点にするとともに、担当者異動によるノウハウ消失を防ぐ。
 19展示物・体験設計を会期後の営業資産として活用する展示物、タペストリー、什器や体験ツールは倉庫に眠らせず、会議室などに常設する。来客時や社内セミナー、工場見学などと組み合わせて営業資産として継続活用する。
 20ゲーム化し活動に勢いをつける出会いたい来場者像と合致したリードの獲得、特典企画へのエントリー、初回商談、顧客ニーズや競合動向などの一次情報収集をポイント化する。望ましい行動ほど高く評価し、チームで共有することで、質を伴った行動の継続とチーム全体の推進力を高める。

本白書で繰り返し確認してきたとおり、展示会は「出せば売れる」段階を終え、「設計して臨む」場へと変わっている。展示会の成果を左右するのは、必ずしも企業規模や予算の大きさではない。重要なのは、チェックリストの項目にあるとおり、来場者の立場から自社ブースを捉え直し、誰のどのような課題に応えるのかを明確にしたうえで、出展前・出展中・出展後を一連のプロセスとして設計することである。

この基本動作を継続できる企業は、展示会を一過性のイベントではなく、顧客接点を創出し、関係を育て、商談機会へとつなげる営業活動として活用できる。

AI時代において、展示会が持つ価値はますます高まっている。ただし、その価値は、出展するだけで自動的に成果へ転換されるものではない。来場者理解に基づく出展設計と、会期後の適切なフォローがあって初めて、展示会は成果につながる営業機会となる。こうした設計力を持つ企業こそが、今後の展示会において継続的に成果を生み出していくことになる。

おわりに

本白書は、「展示会は時代遅れではないか」という問題意識から出発した。その問いに対して、公的統計、業界団体データ、独自調査を重ねて読み解くほどに見えてきたのは、展示会が役割を失いつつあるという見方とは異なる実態であった。

展示会の開催件数はコロナ禍前を上回り、本調査では、出展者の約6 割が今後の出展予算を増やす意向を示している。また、来場者の9割以上が今後も展示会に足を運ぶ意向を持っている。これらの結果が示しているのは、展示会の停滞ではない。むしろ、展示会が、時代に応じて機能を変化させながら、次の段階へ移行しつつある姿である。

展示会は、いま大きな転換点にある。転換点にあるということは、従来のやり方のままでは成果を出しにくくなっていることを意味する。「出れば売れる」時代は終わり、展示会の成果は、出展企業の設計力によって大きく左右されるようになっている。

ここでいう設計力とは、単にブース装飾や集客施策を整えることではない。来場者理解を起点に、出展コンセプト、訴求内容、接客導線、会期後フォローを一貫した活動として組み立てる力である。この視点を持てるかどうかが、今後の展示会活用の成否を分ける。

だからこそ、展示会の成果は、必ずしも出展予算の大きさや投入できる人員の多さだけで決まるものではない。

資金や人手に制約があっても、誰のどのような課題に応えるのかを明確にしたうえで、知恵と工夫を重ねれば、価値ある出会いを生み出し、成果につなげることは十分に可能である。

そして、設計の出発点に置くべき問いは、決して複雑なものではない。

来場者の立場で自社ブースを見たとき、何に関心を持ち、何に違和感を覚えるのか。

自社は、誰のどのような課題に応えるために、この商品・サービスを提供しているのか。

どのような思いを持って、この仕事に向き合っているのか。

これらの問いは、展示会出展のためだけのものではない。日常の営業活動においても、継続的に問い直されるべき、企業活動の根幹に関わる問いである。

AIが情報収集を効率化し、購買プロセスのデジタル化が進むほど、一次情報、体験、信頼の価値は相対的に高まっていく。展示会は、そうした価値を対面の接点を通じて実感し深められる場である。

そこで交わされるものは、商品スペックや機能の説明だけではない。企業がどのような課題意識を持ち、どのような価値を提供しようとしているのか。さらに、その商品・サービスを通じて、どのような社会や未来を実現しようとしているのか。そうした数値化されにくいが本質的な情報もまた、展示会という対面の場で伝えられる重要な要素である。

ただし、展示会が持つこうした力は、出展するだけで自然に成果へ変わるものではない。来場者理解に基づく出展設計、会期中の適切な対応、そして会期後のきめ細かなフォローがあって初めて、展示会で得た接点や、顧客ニーズ・競合動向といった一次情報は、成果につながる事業機会へと転換される。

本白書が、展示会に向き合う出展企業、来場者、主催者にとって、これからの展示会のあり方を考え、次の一手を検討するための一助となれば幸いである。

私自身も、展示会が持つ価値と可能性をさらに引き出していくために、これからも現場に立ち続ける。出展者・来場者・主催者、それぞれにとって、展示会がより意味のある出会いの場となるよう、今後もその実践と発信を続けていきたい。

株式会社展示会営業マーケティング
代表取締役 清永 健一

■ 本白書の引用・転載について

本白書は、展示会産業の発展および出展企業・支援機関・主催者の実務改善に資することを目的として公開するものです。本白書に掲載している本文、図表、調査結果等は、出典を明記いただければ、社内資料、講演資料、報告書、記事、Webサイト等で引用・転載いただけます。

引用・転載の際は、以下のように出典を明記してください。
出典:株式会社展示会営業マーケティング「展示会白書」

清永健一

執筆・監修者プロフィール

清永 健一(きよなが けんいち)

展示会営業®コンサルタント/中小企業診断士

株式会社展示会営業マーケティング代表取締役。展示会を活用した売上アップの技術を伝える専門家。
展示会をテーマとした書籍を複数執筆し、執筆書籍はいずれもAmazon部門1位を獲得。
「日経MJ」「NHKラジオ総合第一」など、多くのメディアで取材を受けている。

これまでに1300社を超える企業の展示会出展・営業強化を支援。
ほぼ毎週、東京ビッグサイトをはじめとする展示会場に足を運び、
現場で得た一次情報と独自調査をもとに、展示会を成果につなげる方法を発信している。