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コラム:清永 健一の現場ノート~展示会は時代の鼓動を映す羅針盤~|展示会白書

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展示会は、今この瞬間の世の中を映す鏡

ここまで、主に出展者が展示会で成果を出すための考え方を論じてきましたが、展示会にはもう一つ、大切な価値があります。それは、来場者として会場を歩くことで、世の中の変化を肌感覚でつかむことができるという点です。

私は毎週のように東京ビッグサイトに通っていますが、会場を歩くたびに感じることがあります。それは、展示会にはニュースになる前の変化、統計に表れる前の兆し、現場でいま本当に困っている課題が驚くほど生々しく表れているということです。展示会は、一次情報の宝庫なのです。

このコラムでは少し視点を変えて、来場者が展示会を活用するときに意識したいポイントを、マクロとミクロの二つの角度からお伝えします。

■マクロ視点――新産業が「メジャーデビュー」する舞台

展示会は、どのようなタイミングで生まれるのでしょうか。

私の現場感覚では、新しい展示会の立ち上がりには、そのテーマに対する世の中の関心が高まり、社会に定着し始める兆しがかなり鮮明に表れます。

わかりやすい例を二つ挙げます。

一つ目は「ブロックチェーン」です。仮想通貨バブルとともにこの言葉が広まったのは2017年頃でした。当時はまだ「難しそう」「投機的なもの」というイメージが先行していて、ビジネスとして本格的に実装しようとしている企業は限られていました。その後、技術面・ビジネス面の土壌が整い、現実的に使える技術として認識され始めた2020年のタイミングで「ブロックチェーンEXPO」が初開催されます。

もうひとつの例は「推し活」です。アイドルや俳優、キャラクター、VTuberなど、自分の「推し」を応援する文化そのものは以前から存在していました。しかし「推し活」という言葉が一般化し、大きな社会現象として認識されるようになったのは2020年前後のことです。

SNSの普及によってファン同士のつながりが可視化され、「推しにお金を使うことは自己表現でもある」という価値観が広がりました。アクリルスタンド、ぬいぐるみ、フォトスポット。「推し活」を前提とした商品やサービスが次々と生まれ、商業施設やイベント会場も「推し活対応」を意識するようになっていきました。そして、個人の趣味から明確な消費市場へと進化したタイミングで、2024年に「推し活EXPO」が立ち上がったのです。

この二つの例には、共通するパターンがあります。

最初は、少し怪しさがある。知る人ぞ知る世界にとどまっている。しかし、やがて市場として現実的に動き始める。そのタイミングで、専門展示会が誕生する。

私は、ここに展示会の本質があると考えています。音楽でたとえるなら、インディーズで熱心なファンを増やしてきたアーティストが、メジャーレーベルと契約して全国デビューする瞬間。展示会の初開催は、産業にとっての「メジャーデビュー」なのです。

逆に言えば、いま新しく開催され始めている展示会を把握すれば、これから伸びる産業の兆しが見えてくる、ということです。

ニュースサイトや業界誌で二次情報を追いかけることも大切です。しかしそれ以上に、新しく立ち上がる展示会のテーマをチェックすることには、実践的な意味があります。そこには、これからビジネスとして本格化していくテーマが凝縮されているからです。

自社のビジネスの周辺分野で、新たな展示会が立ち上がっていないか、ぜひ確認してみてください。そこに、次のビジネスチャンスが眠っているかもしれません。

■ミクロ視点――現場のブースが語る「生々しい世相」

展示会が世相を映すのは、マクロなテーマだけではありません。

実際に会場を歩いていると、同じような商材を扱うブースが複数並んでいる場面に出会うことがあります。これは偶然ではありません。市場でいま何が起きているのか、現場でどんな課題が深刻になっているのか、顧客が何に困り企業がどこに商機を見ているのか。それらが、ブースの並び方や出展テーマに凝縮されているのです。

たとえば、今、食品系の展示会に行くと、海外バイヤー向けのお茶のブースが目立ちます。緑茶、抹茶、ほうじ茶、玄米茶。さまざまなブランドが英語のPOPを掲げ、海外市場に向けて積極的にアピールしています。世界的な健康志向の高まりを背景に、日本のお茶が海外で評価され始めている。実際に海外バイヤーが来場して反応している。だから企業も出展する。その循環が、会場の風景として可視化されているわけです。

もう一つ例を挙げます。エネルギー関連の展示会に行くと、水素燃料電池やバイオマス発電、電力制御設備のブースに混じって、「ケーブル盗難防止」を打ち出した企業が複数出展しています。近年、金属価格の高騰などを背景に、太陽光発電所の銅線ケーブルが盗まれる被害が全国で相次ぎ、現場では深刻な問題になっています。だからこそ、その解決策を持つ企業が展示会に出てくるのです。一見ニッチに見える「ケーブル盗難防止」というテーマが、複数企業のビジネスとして成立するほどの市場になっている。そのことをブースの数が教えてくれます。

展示会では、「いままさに顧客が困っていること」への解決策を出展することが鉄則です。複数の企業が類似の商材を並べているということは、その課題がいま市場で広がっているサインにほかならないのです。

どのブースに人だかりができているか。どんなキャッチコピーが増えているか。来場者はどの展示物の前で足を止めているか。

こうしたことを会場全体を歩きながら観察するだけで、ニュースからは見えてこない「生々しいミクロの世相」が肌感覚でつかめます。こうした情報は、検索では得にくく、AIに聞いてもすぐには出てきません。現場に行き、自分の目で見て、空気を感じるからこそ得られる一次情報です。

展示会は、商材を探索する場であると同時に、世の中の変化を読むための羅針盤でもあります。新しく生まれる展示会を見れば、これから伸びる産業の兆しが見えます。会場のブースを観察すれば、いま市場で起きている課題を発見できます。だからこそ、展示会は面白い。

展示会は、今この瞬間の世の中を映し、少し先の未来を教えてくれる。一次情報の宝庫なのです。

■ 本白書の引用・転載について

本白書は、展示会産業の発展および出展企業・支援機関・主催者の実務改善に資することを目的として公開するものです。本白書に掲載している本文、図表、調査結果等は、出典を明記いただければ、社内資料、講演資料、報告書、記事、Webサイト等で引用・転載いただけます。

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出典:株式会社展示会営業マーケティング「展示会白書」

清永健一

執筆・監修者プロフィール

清永 健一(きよなが けんいち)

展示会営業®コンサルタント/中小企業診断士

株式会社展示会営業マーケティング代表取締役。展示会を活用した売上アップの技術を伝える専門家。
展示会をテーマとした書籍を複数執筆し、執筆書籍はいずれもAmazon部門1位を獲得。
「日経MJ」「NHKラジオ総合第一」など、多くのメディアで取材を受けている。

これまでに1300社を超える企業の展示会出展・営業強化を支援。
ほぼ毎週、東京ビッグサイトをはじめとする展示会場に足を運び、
現場で得た一次情報と独自調査をもとに、展示会を成果につなげる方法を発信している。