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第6章 AI時代の展示会の位置づけ|展示会白書

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本章は、第2章で示した展示会産業の客観的な動向と、第4章・第5章で示した出展者・来場者の実態を踏まえ、AI・デジタル全盛の時代における展示会の本質的な価値を論じる。

6-1.「展示会は時代遅れ」という言説の検証

ここ数年、BtoBマーケティングの現場では「展示会は時代遅れではないか」という声が一定の頻度で聞かれるようになった。SNS上には、まばらな来場者の写真とともに「投資に見合わない」「もう展示会の時代ではない」という投稿も散見される。

しかし、この言説をデータと照らして検証すると、いくつかの食い違いが見えてくる。

第2章で確認したとおり、2024年の国内展示会開催件数は927件で、コロナ前の2019年(764件)に対して121.3%の水準に達した56)。2025年は約980件57)、2026年は約995件58)の開催が予定されており、業界全体として件数ベースでは拡大基調が継続している。

個別企業のレベルでも、第4章で確認した出展者調査では、今後1年間の展示会関連予算について増加を見込む企業が63.5%に達し、出展方針についても、拡大・現状維持の合計が87.1%に達している。来場者側もまた、第5章で見た来場者調査において、今後の展示会来場意向について「積極的に来場したい」「機会があれば来場したい」の合計が93.4%に達した。

さらに、第4章および第5章で見たとおり、出展者・来場者の双方で約7割が「AI時代における展示会の重要性は高まる」と回答しており、BtoBマーケティング施策の中でも展示会は「最も成果を実感できる施策」として企業に選ばれている。

開催件数、出展者の予算・出展意欲、来場者の来場意向、AI時代の展示会重要性認識、BtoBマーケティング施策の中での位置づけ。これらの動向はいずれも、展示会が時代遅れで衰退傾向にあるという仮説とは整合しない。

それにもかかわらず「時代遅れ」という印象が一部で広がっている背景には、展示会の業種別の集客動向の差が影響していると考えられる。

第2章で見たとおり、展示会の来場者動向は業種・分野によって一様ではない。製造業・半導体・エネルギー関連では過去最高規模を記録する展示会がある一方、IT・DX関連では伸び悩みが見られるものもある。その背景には、IT・AI分野で展示会の開催件数が短期間に増加し、来場者が複数の展示会に分散しやすくなっていることがある。

「展示会は時代遅れだ」という言説の多くは、こうした特定業種の来場者分散という実態を反映した声である可能性がある。展示会という場全体を俯瞰した評価として受け取るよりも、業種・分野ごとの構造的な差異を踏まえたうえで、データに基づいて判断することが求められる。

加えて、仮に特定の展示会で来場者が少なかったとしても、そのこと自体が直ちに展示会というチャネルの衰退を意味するわけではない。第5章で確認したとおり、展示会は目的志向の強い来場者が集まる場へと変化しつつあり、来場者の総数だけで展示会の価値を測ることには構造的な限界がある。

以上のデータが示すのは、展示会の価値低下ではなく、展示会の「使われ方の変化」である。では、その変化はなぜ起きているのか。次節では、BtoBマーケティングの歴史的なパターンから、その構造的な必然性を読み解く。

6-2. デジタルマーケティングの「繰り返し」に学ぶ

第1章でも触れたとおり、BtoBマーケティングの歴史を振り返ると、「これからはデジタルで完結する」「対面営業はもう不要だ」という言説は繰り返し現れてきた。そして、そのたびに一定の揺り戻しが生じてきたことも、また事実である。

資料請求フォーム、ウェビナー、オンライン商談ツールが普及した時期には、「営業担当者が訪問しなくても受注できる」という期待が広がった。しかし、複数部門の合意が必要なBtoB商材では、最終的に担当者が直接説明して不安を解消し、信頼関係を築く局面が欠かせないという実態が、繰り返し確認されてきた。

SaaS業界でも、一時は「営業担当者を介さず、Web上で顧客自身が試し、そのまま契約する」販売モデルが注目された。しかし、実際のBtoB購買では、デジタルだけで意思決定を完結させることは難しく、多くの企業が、営業担当者による説明や提案を組み合わせる方向に進んでいる。この流れは、BtoB取引において、効率的な情報収集だけでなく、直接対話による納得形成が依然として重要であることを示している。

重要なのは、効率化の追求が極まるほど「効率化できない部分」の相対的な重要性が浮かび上がるという構造である。AIによる情報収集が浸透すればするほど、AIだけでは到達できない情報や体験への関心は、むしろ強まる方向に働く。

BtoBの購買プロセスが本質的に持っている性質である複数の意思決定者の関与、対面での信頼形成の必要性は、デジタル技術がいかに進展しても変わるものではなく、AI時代だからこそ展示会の重要性が増すという見方はこうした構造から導かれる。

こうした歴史的パターンが示しているのは、対面での接点には、デジタルやAIでは代替しにくい役割があるということである。では、展示会という場では、具体的にどのような情報や体験が得られるのか。次に、その価値の源泉について見ていきたい。

6-3. AIと展示会の本質的な違い「一次情報と二次情報」

AI時代における展示会の価値を考えるうえで、最も重要な視点となるのが「一次情報」と「二次情報」の違いである。ここでいう一次情報とは、当事者が直接観察し、体験し、対話することで得られる情報を指す。一方、二次情報とは、一次情報をもとに、整理・編集・解釈・公開された情報を指す。

生成AIは、Web上に存在する膨大な二次情報を学習し、要約・整理して提示することを得意とする。しかし、AIツールを使えば競合他社も同じ情報源にアクセスできるため、AIから得られる情報をもとにした意思決定は業界全体で均質化していく可能性がある。

近い将来、購買側にAIエージェントが導入され、それに対応する形で販売側にも販売AIエージェントが配置されるという展望は、すでにBtoBマーケティングの領域でも議論され始めている。こうした動きが現実味を増すにつれ、AIにどのような独自情報を与えられるかが、企業間の競争力を左右するようになる。

これに対し、展示会で得られる情報は、その性質が根本的に異なる。展示会に出展する企業にとっては、来場者がブースで実物に触れたときの反応、説明への食いつき方、質問、表情の変化が、その場でしか得られない一次情報となる。

こうした出展者が得る一次情報は、営業活動に使う見込み客情報だけではない。来場者がどの機能に反応したのか、どの説明で表情が変わったのか、どのような質問や不安が繰り返し出たのかは、商品開発やサービス改善の重要な手がかりとなる。また、同じ会場に並ぶ競合企業の訴求内容、展示方法、来場者の反応を観察することは、市場の変化や競合動向を把握するうえでも貴重な一次情報となる。

来場者にとっても、開発者やエンジニアと直接対話したときに得られる実感、競合製品との比較における具体的な印象、ブース全体から感じ取れる出展者の姿勢は、Web上の情報やAIによって要約・再構成されたコンテンツだけでは得られない一次情報である。

展示会で出展者・来場者が一次情報を能動的に収集することは、情緒的・体感的な価値の獲得にとどまらない。市場や顧客ニーズの変化、商品開発のヒント、営業活動の改善、競合動向の把握に活用できる独自情報を蓄積し、競争優位を確立するための戦略行動でもある。

この見方は、第5章で確認した来場者調査のデータとも整合的だ。来場者が「期待以上」と感じたブースの特徴の上位には、「開発者やエンジニアから直接話を聞けた(49.1%)」「他社では聞けない導入事例や活用ノウハウに触れられた(42.2%)」「業界の最新動向や未公開情報を入手できた(29.8%)」が並ぶ。

逆に、来場者が「期待外れ」と感じたブースの特徴では、「展示内容がWebサイトで得られる情報と大差なかった(35.1%)」が上位に挙がっており、展示会という場の特性を活かさず二次情報をそのまま提示するだけのブースは、来場者から低く評価されていることがわかる。

なお、製品の実物を直接展示しにくいシステムやサービスなどの無形商材の出展であっても体験性を取り入れる工夫は可能である。一次情報・体験情報の獲得は、扱う商材の物理的な特性だけで決まるものではなく、来場者が考え、選び、判断する設計によっても生み出すことができる。詳しくは第8章で論じる。

ただし、ここで強調しておきたいのは、一次情報の価値を主張することが、デジタル施策の否定を意味しないという点である。展示会とAI・デジタル・オンラインの関係は、対立ではなく補完として捉え直されるべきである。

6-4. オンラインとリアルの「補完」関係

ここまでの議論は、「オンラインかリアルか」という二項対立を主張するものではない。むしろ、両者の関係は、補完として捉え直されるべきである。

第5章で確認したとおり、業務上の情報収集手段としては、Web検索(56.5%)、AI検索ツール(50.2%)、展示会(50.0%)がいずれも5割前後で利用されており、展示会後にWeb検索やAI検索で追加の情報収集を行った来場者は76.7%に達した。来場者は展示会・Web・AIを「代替関係」としてではなく、目的に応じて使い分けながら、一連の情報収集プロセスの中に組み込んでいることがうかがえる。

具体的には、おおむね次のような流れが広がりつつあると考えられる。

1. WebやAI検索で業界動向を把握し、候補となる製品・サービス・企業を洗い出す。

2. 展示会に足を運び、実物を確認し、担当者と直接対話して候補を絞り込む。

3. 展示会後にWeb・AIで追加情報を確認し、社内検討に必要な比較材料を整える。

4. 出展企業からのフォローアップを受けつつ、商談・導入検討に進む。

このプロセスにおいて、WebやAIは広く浅く情報を網羅するのに向いており、リアル展示会は狭く深く検証・確認するのに強みを持つ。両者は異なる役割を担っており、組み合わせることによって購買プロセス全体の質が高まる。

第5章で確認したとおり、当社が2020年に実施した展示会調査(来場者編n=106、出展者編n=106)では、コロナ禍の特殊状況下で、オンライン展示会への高い関心が示されており、オンライン展示会はリアル展示会の「代替」として期待される向きが強かった59,60)

しかし、6年を経た現在、購買判断に最も影響した情報源として「展示会での対面情報の方が影響が大きかった」と「どちらかといえば展示会での対面情報」の合計が60.0%に達し、オンラインはリアルの代替ではなく前後をつなぐ補完手段として定着したといえる。展示会業界全体としても、オンラインとリアルの関係性は「代替論」から「補完論」へと移行しつつある。

今後はさらに、主催者側のデジタル活用によって、リアル展示会そのものの価値を高める動きも重要になる。たとえば、来場者が事前にWeb上で関心テーマや課題を登録しておくと、会場内で自身の課題と関連性が高いブース付近を通過した際に、当該ブースに関する情報がスマートフォンに通知される。こうした仕組みにより、来場者と出展者の接点をより的確に生み出すことができる。来場前の関心情報、会期中の行動データ、出展者側の提供情報を組み合わせることで、来場者と出展者の出会いをより精度高く設計することが可能になる。こうしたデジタルマッチングの仕組みは、オンラインがリアル展示会を置き換えるのではなく、リアル展示会の体験価値を高める方向で機能するものである。この点については第7章で詳しく論じる。

このように、オンラインとリアルがそれぞれの役割を担いながら購買プロセス全体を構成するとすれば、展示会に求められる役割もまた、従来とは異なる形で定義し直される必要がある。

6-5. 展示会の新しい役割定義

ここまでの議論を踏まえ、AI時代における展示会の役割を再定義する。

Web検索が定着し、AIによる情報探索が広がりつつある現在、来場者は展示会に来る前から、すでに一定の情報を取得した状態で会場を訪れる傾向を強めている。第5章で確認したとおり、来場者の9割以上が事前に訪問候補を決めて来場しているという事実はその表れである。

来場者が事前情報を持って来場するということは、展示会に求められる役割が変化することを意味する。情報量の多さで勝負する場ではなく、「実物を確認する」「担当者と対話する」「自社に合うかを見極める」「信頼できる相手かを判断する」場へと、展示会の機能はシフトしつつある。

一方で、展示会の価値は、事前に調べた候補を確認することだけにあるわけではない。会場を歩く中で、思いがけない製品・サービス、企業、人、技術、発想に出会うことも、展示会が持つ重要な機能である。たとえば、書店を歩いているときに、偶然目に入った一冊の本によって、自分でも意識していなかった興味・関心に気づかされることがある。展示会にも、それと同じような偶然の発見がある。

AIや検索エンジンは、利用者の関心や過去の行動に基づいて、情報を効率的に提示する。しかし、その効率化が進むほど、自分がまだ明確に言語化できていない課題や、検索しようとも思っていなかった選択肢に出会う機会は限られていく。展示会は、来場者が自ら会場に足を運び、意図的に「偶然の出会い」が起こりうる環境に身を置く場でもある。

この意味で、AI時代の展示会は、単なる情報収集の場ではなく、探索と発見の場でもある。事前に決めた訪問先を確認する場であると同時に、まだ言葉になっていない課題や、想定外の解決策に出会う場としての価値を持つ。AIによってあらゆる情報が最適化される時代だからこそ、偶然の発見が生まれうるリアルな場としても、展示会の意味は高まっている。

こうした「確認」と「発見」の両面のうち、購買プロセスにおける「確認」の機能は、調査結果にも表れている。第5章で見たとおり、展示会で得た情報が購買意思決定に影響したと回答した来場者は79.7%に達し、その影響内容の上位は「比較検討していた候補を絞り込む判断材料になった(63.5%)」「実物を見たことで、導入への社内説得がしやすくなった(44.1%)」「担当者と直接話したことで、信頼性や対応力を確認できた(39.9%)」であった。展示会は、購買プロセスの「絞り込み」「社内説得」「信頼確認」という重要な局面で機能している。

あわせて重要なのは、展示会で獲得したリードを、関係構築の起点として捉える視点である。第4章で確認したとおり、獲得リードの中には、自社が役に立てる可能性が高く早期に次の接点を設けることが望ましい「今すぐ客」だけでなく、中長期で関係を育てるべき「そのうち客」も一定数含まれている。したがって、展示会は短期の商談・受注につながる機会であると同時に、中長期の商談機会を育てる起点でもある。重要なのは、どちらか一方に限定して捉えるのではなく、来場者の状態に応じて、即時対応と継続的な関係構築を使い分けることである。

そして、関係構築の起点としての展示会において重要になるのは、商品スペックや機能の説明にとどまらず、「その商材を扱う背景にある自社の問題意識」や「その商材を通じて社会や顧客にもたらしたい価値」を伝えることである。商品情報や機能比較情報がWebやAIを通じて容易に取得できる時代には、スペック上の違いは来場前の段階で比較されやすい。だからこそ展示会では、機能や数値だけでは伝わりにくい開発背景、顧客課題への向き合い方、導入後に実現したい変化までを、対話を通じて伝える必要がある。企業の課題意識、姿勢、理念を直接伝えられる対面チャネルとして、ここに展示会の価値が浮かび上がる。

ただし、こうした価値は、出展企業が自動的に手にできるものではない。展示会は「出せば成果が出るチャネル」ではなく、意図的な設計があってはじめて価値が引き出される施策である。来場者の立場で、誰のどんな悩みを解決するために自社の商品・サービスがあるのかを問い直し、出展前のコンセプト設計から出展後のフォローまでを一気通貫のプロセスとして設計することが重要である。これらは本来、通常の営業活動においても問われ続けるべきテーマである。

展示会は「不特定多数の前で自社を提示する場」であるからこそ、そうした根源的な問いに立ち返らざるをえない機会として機能する。展示会の準備を真剣に行うことは、展示会単体の成果にとどまらず、企業の営業活動全体を見直す契機にもなる。具体的な実践論については、第8章で論じる。

【脚注】

56. 公益財団法人日本交通公社「旅行年報2025」
https://www.jtb.or.jp/book/annual-report/annual-report-2025/
57. ピーオーピー社(2025年1月)「2025年の見本市展示会開催状況」
https://www.eventbiz.net/?p=150249
58. ピーオーピー社(2026年1月)「2026年の見本市展示会開催状況」
https://www.eventbiz.net/?p=163119
59. 株式会社展示会営業マーケティング「約7割が『オンライン展示会に興味』~コロナ禍の展示会実態調査(来場者編)で明らかに~」(2020年10月21日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000063081.html
60. 株式会社展示会営業マーケティング「83.0%が『オンライン展示会に興味』~コロナ禍の展示会出展者実態調査で明らかに~」(2020年10月15日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000063081.html

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出典:株式会社展示会営業マーケティング「展示会白書」

清永健一

執筆・監修者プロフィール

清永 健一(きよなが けんいち)

展示会営業®コンサルタント/中小企業診断士

株式会社展示会営業マーケティング代表取締役。展示会を活用した売上アップの技術を伝える専門家。 展示会をテーマとした書籍を複数執筆し、執筆書籍はいずれもAmazon部門1位を獲得。 「日経MJ」「NHKラジオ総合第一」など、多くのメディアで取材を受けている。

これまでに1300社を超える企業の展示会出展・営業強化を支援。 ほぼ毎週、東京ビッグサイトをはじめとする展示会場に足を運び、 現場で得た一次情報と独自調査をもとに、展示会を成果につなげる方法を発信している。