1-1. 巻頭メッセージ
2015年に展示会専門のコンサルティング会社を創業して以来、私は展示会に出展する企業の支援に専門的に携わってきました。前職時代からの経験も含めると、支援実績は1,300社を超えます。
いま、私が強く感じていることがあります。それは、展示会産業は大きな転換点を迎えているということです。
コロナ禍を経て、私たちは「対面で集まること」の意味をあらためて問い直しました。そこへ追い打ちをかけるように、生成AIをはじめとするデジタル技術が急速に普及し、情報収集や購買判断のあり方が根本から変わりつつあります。
こうした時代の変化の中で、「展示会はもう時代遅れではないか」という声を耳にするようになりました。実際、特定の業種では来場者の集客に苦戦する展示会も出てきています。
しかし私は、まったく逆の見方をしています。AIによって、パソコンやスマートフォンの画面上で調べられる情報の量と質は飛躍的に高まりました。しかし、現地に足を運ばなければ得られない体験があります。オンライン上の情報だけでは確かめきれない信頼があります。そして、まだ誰も言語化していない一次情報があります。だからこそ、展示会の価値はむしろ高まっていく。私はそう確信しています。
本白書のために実施した独自調査でも、その傾向を示す回答が得られています。出展者・来場者の双方から、AI時代における展示会の重要性が「高まる」とする回答が得られました。これは、私が展示会の現場で日々抱いている実感とも重なります。情報収集がデジタル上で完結しやすくなる時代だからこそ、人と人が直接出会い、実物を前にして言葉を交わす場として、展示会の価値がこれまで以上に大きくなっているのです。
ただし、その価値は自動的に高まるものではありません。出展者には、来場者の目線に立ち、デジタルでは代替できない体験を届ける姿勢が求められます。来場者にとっては、検索だけでは得られない一次情報を獲得する機会として、展示会を主体的に活用することが有効です。主催者には、出展者と来場者の双方にとって価値ある出会いが生まれるよう、展示会という場の価値をさらに磨き上げていく役割があります。
私自身も、展示会の価値と可能性をさらに引き出していくために、これからも現場に立ち続けます。出展者・来場者・主催者、それぞれの声に耳を傾けながら、学び続けていきます。本白書が、展示会というチャネルに向き合うすべての方にとって、次の一手を考える契機となれば、これに勝る喜びはありません。
代表取締役 清永 健一
1-2. 展示会産業を取り巻く環境変化の概観
BtoBマーケティングの世界は、この数年で大きな転換期を迎えている。生成AIの急速な普及、マーケティングオートメーション (MA) の高度化、見込み客のWeb上の行動データを基にしたアプローチの精緻化。こうしたデジタル技術の進展は、売り手側の営業・マーケティング活動を高度化させると同時に、買い手側の情報収集や比較検討のあり方にも影響を与えている。その結果、「効率化」はあらゆる企業が追い求めるテーマとなった。
こうした潮流の中で、展示会という長年にわたり活用されてきたマーケティング手法に対して「もはや時代遅れではないか」という声が聞かれるようになっている。デジタルで見込み客情報、いわゆるリードを獲得し、顧客育成を自動化し、インサイドセールスがオンラインで商談を進める。そのような効率的なモデルが広がりつつある今、「何人ものスタッフが長時間会場に常駐し、不特定多数の来場者に対応する展示会という形式に投資する合理性はあるのか」という問いも生まれている。
では、展示会の需要は実際にはどう推移しているのか。公益財団法人日本交通公社の「旅行年報2020年版」および「旅行年報2025年版」1)によれば、2019年の国内展示会開催件数は764件であったが、2024年の実績では927件となり、コロナ前の2019年比で121.3%の水準に達した。展示会開催件数はコロナ禍後に回復し、2024年は過去最多水準を記録している。
この数字が示しているのは、少なくとも開催件数ベースでは、展示会は時代遅れどころか、むしろ拡大基調にあるという事実である。AI・デジタル全盛の時代において、二次情報はかつてないほど氾濫している。だからこそ、五感を使って製品やサービスに直接触れ、営業担当者、技術者や開発者と対話し、一次情報を得られる展示会の価値は、むしろ高まっている可能性がある。
ただし、「出れば売れる」時代はすでに終わっている。来場者の目は肥え、情報収集の手段も多様化している。来場者起点で展示会を再設計し、出展前の戦略策定から出展後のフォローアップまでを一貫して実行できる企業だけが成果を出し続けることができるのだ。本白書は、こうした認識のもとに企画された。公的統計、業界団体データ、独自調査の三層構造で、展示会の「今」を多角的に描き出すことを目指す。
1-3. 本白書の構成と読み方ガイド
本白書は全8章と2つのコラム(Coffee Break)で構成されており、各章の位置づけは以下のとおりである。
本白書の中核は、第4章以降にある。第4章・第5章では、出展者調査・来場者調査の結果をもとに展示会の現状を明らかにし、第6章以降では、その結果を踏まえて、AI時代における展示会の価値、関係者への示唆、成果を高める実践ステップを整理している。調査結果や実践的な示唆を先に確認したい読者は、第4章以降を中心に読み進めることで、本白書の主要な論点を把握できる。
第1章では、本白書の問題意識と全体構成を示す。
第2章・第3章では、国内外の展示会産業の動向を時系列および比較の観点から整理する。コロナ前後の推移から現在の姿、そして世界における日本の位置づけを客観的なデータで概観する。
第4章「出展者の実態」と第5章「来場者の実態」は、本白書のために当社が実施した独自調査の報告パートである。出展者・来場者の双方の視点を照らし合わせることで、展示会の構造的な課題と可能性を浮き彫りにする。
第6章「AI時代の展示会の位置づけ」では、AIやデジタル施策が広がるなかで、展示会が持つ独自の価値を整理する。
第7章では、第4章・第5章の調査結果を踏まえ、出展者、主催者、中小企業支援機関に向けた具体的な示唆を整理し、これからの展示会に求められる役割を考察する。
第8章では、出展者が成果を高めるための実践的な方法論を提示する。
なお、国内展示会の来場者数・出展者数は、国際展示会協会(UFI)や日本展示会協会(JEXA)による第三者認証を受けた数値ではなく、主催者の自己申告に基づく点に留意が必要である。本白書では、こうした統計上の限界を明示しつつ、複数のソースを照合する方針を採っている。
【脚注】
公益財団法人日本交通公社(2025)「旅行年報2025年版」、公益財団法人日本交通公社刊 https://www.jtb.or.jp/book/annual-report/annual-report-2025/
■ 本白書の引用・転載について
本白書は、展示会産業の発展および出展企業・支援機関・主催者の実務改善に資することを目的として公開するものです。本白書に掲載している本文、図表、調査結果等は、出典を明記いただければ、社内資料、講演資料、報告書、記事、Webサイト等で引用・転載いただけます。
引用・転載の際は、以下のように出典を明記してください。
出典:株式会社展示会営業マーケティング「展示会白書」

