展示会には、何百社、場合によっては1,000社を超える企業が出展しています。
では、一人の来場者は、そのうち何社のブースに立ち寄っているのでしょうか。
弊社:株式会社展示会営業マーケティングが、直近1年以内にBtoB展示会へ業務目的で来場した1,089名を対象に実施した『展示会白書』では、直近の展示会で立ち寄ったブース数を尋ねています。

最も多かったのは「4~6社」の43.1%。次いで「7~10社」が32.0%でした。
両者を合わせると75.1%です。
ここでいう「立ち寄った」は、会場で視界に入ったすべてのブース数を意味するとは限りません。説明を受けた、会話した、名刺交換した、印象に残ったなど、回答者が一定以上の接点として記憶しているブースが中心になっている可能性があります。
それでも、この数字を見て、ぼくがあらためて感じたことがあります。
展示会では、来場者の時間も注意力も有限だということです。
出展側から見ると「会場には何万人も来場する」と考えます。
でも来場者側から見れば、何百ものブースの中から、限られた時間で「ここは見ておこう」という会社を選んでいます。
つまり展示会の最初の競争は、隣のブースより目立つことではありません。
来場者の限られた「訪問枠」に自社が入ることなのです。
では、どうすればその枠に入れるのでしょうか。
来場者1,089名の行動データと、ぼくが1,300社以上の企業を支援してきた経験から整理します。
来場者の75.1%は「立ち寄ったブース」が4~10社だった
前掲のグラフのとおり、『展示会白書』では、直近の展示会で立ち寄ったブース数について、次の結果が出ています。
- 1~3社:9.1%
- 4~6社:43.1%
- 7~10社:32.0%
- 11~15社:8.6%
- 16社以上:6.2%
大規模展示会を一日中歩けば、目に入るブースはもっともっと多いでしょう。
ぼく自身、ほぼ毎週のように展示会場を歩いていますが、何十、何百というブースの前を通ります。
しかし、「きちんと立ち寄った」「担当者と話した」「後から思い出せる」というレベルになると、その数は一気に減ります。
これは出展企業にとって、とても重要な違いです。
出展者はつい、
「来場者3万人」
という主催者発表の数字を見ます。
でも、自社が本当に競っているのは3万人全員ではありません。
一人の来場者が頭の中に持っている、数社から10社程度の「ちゃんと見る会社」の枠です。
ぼくはこの枠を、「来場者の時間予算」と考えています。
来場者は、お金だけでなく時間も投資して展示会に来ています。
だから、すべてのブースに均等に時間を配るわけではありません。
しかも90.6%は、会場へ来る前から1社以上を候補にしている
さらに重要なのが、訪問先をいつ決めているかです。
同じ来場者1,089名に「来場前から立ち寄ると決めていたブース数」を尋ねると、「3~5社」が39.2%、「1~2社」が38.2%でした。

「0社、すべて当日その場で決めた」は8.8%。
つまり、90.6%が来場前から少なくとも1社以上を訪問候補にしていたことになります。
展示会集客というと、ブース前での呼び込みを思い浮かべる方が多いかもしれません。
もちろん当日の声かけは重要です。
でも、来場者の頭の中では、その前から選考が始まっています。
「この会社は見ておこう」
「この製品は実物を確認したい」
「前に相談した会社だから寄ってみよう」
こうした候補に入った状態で会場に来ている人が多いのです。
だからぼくは、展示会の集客を二つに分けて考えます。
会期前は「訪問候補に入る」。
会期中は「予定になかった人にも気づいてもらう」。
どちらか一方ではありません。
「招待状を送った」だけでは候補入りしたとは限らない
ここで興味深いデータがあります。
展示会への来場目的を複数回答で尋ねると、「取引先などからの招待」は43.8%でした。

一方、「ブースに立ち寄る際に重視する要素」を上位3つまで選んでもらうと、「事前にメールやSNSで案内をもらっていたこと」は5.0%でした。

設問が異なるため、この数字を単純に比較することはできません。
ただ、ぼくはここから、
「招待は展示会へ行くきっかけにはなっても、案内を送っただけで自社ブースが選ばれるとは限らない」
と考えています。
ですから、
「○○展に出展します。ぜひお立ち寄りください」
だけで終わらせません。
以前、人手不足について相談を受けた相手なら、
以前お話しいただいた人手不足の件に関連して、今回、同じ課題を持つ企業の改善事例と実機をご用意します。15分ほど実際にご覧になりませんか。
と伝えます。
これは展示会の案内ではありません。
前回の会話の続きです。
特に会いたい相手なら、「ぜひお越しください」ではなく、具体的な時間を提案して訪問予約まで進めてもよいでしょう。
展示会前の具体的な集客方法については、展示会の集客を成功させる方法でも詳しく解説しています。
予定外の来場者を止める1位は「自社の課題に関係がある」と気づくこと
では、事前の訪問候補に入っていない企業にはチャンスがないのでしょうか。
もちろん、そんなことはありません。
展示会には「こんな会社があったのか」という偶然の発見があります。
ただし、偶然の発見も、本当に偶然だけで起こるわけではありません。
来場者1,089名に、「ブースに立ち寄る際に重視する要素」を上位3つまで尋ねた結果、前掲のグラフのとおり、
最も多かったのは、
「自社の業務課題に直結するキーワードや展示内容が目に留まったこと」51.5%
でした。
続いて、
「製品・サービスの実物展示やデモ体験ができること」40.1%。
「事前に気になっていた企業やブランドであること」36.8%。
「事例や開発者の見解、初公開情報など展示会場でしか得られない情報に触れられること」34.6%です。
一方、「ブースの見た目や演出が目を引くこと」は20.3%でした。
装飾が不要という意味ではありません。
装飾は、言葉や展示物を見てもらうために重要です。
ただ、ぼくがこの数字から重視するのは、
「目立つ」より先に「自分に関係がある」と思ってもらう
ということです。
たとえば、ブース正面に大きく会社名を書く。
知名度のある会社なら、それだけで立ち寄る理由になるかもしれません。
しかし、まだ知られていない中小企業なら、来場者は会社名を見ても自分との関係を判断できません。
それよりも、
「食品工場の検品人員を減らしたい方へ」
「多品種少量生産の段取り替えを短縮したい工場長へ」
「海外バイヤーに伝わる日本食品を探している商社の方へ」
など、
「これは自分のことかもしれない」
と思える言葉の方が、足を止める理由になります。
「誰の、どんな課題を解決するブースなのか」を一目で伝える。この考え方は、ぼくが展示会営業®ノウハウでお伝えしている「ワンブース・ワンアイテム・ワンターゲット」にもつながります。
ブースに入った後は「説明」ではなく「確かめられること」が重要になる
訪問候補に入り、ブースの前で足を止めてもらった。
次の勝負は、その中身です。
来場者がブース選びで重視する項目の2位は、「実物展示やデモ体験ができること」40.1%でした。
一方、「ノベルティや特典があること」は11.4%です。
これも「ノベルティには意味がない」という数字ではありません。
ぼくが注目しているのは、来場者自身が、
「触ってみたい」
「動かしてみたい」
「違いを確かめたい」
という行動を重視していることです。
以前支援したウレタンメーカーA社では、硬さや反発力の違うウレタンを単に並べるのではなく、「ウレタン的あてゲーム」を用意しました。
来場者自身がウレタンボールをワンバウンドさせて的を狙います。
ボールによって跳ね方が違う。
すると商品説明をする前に、
「こんなに違うんですね」
という言葉が来場者側から出てきます。
切削工具関連のB社では、自社製品と一般品を実際に叩いてもらい、音と振動の違いを確かめてもらいました。
難しい技術の説明を何分も聞くより、「コツン」と「ボーン」の違いを自分の手と耳で感じてもらう方が伝わることがあります。
ここで起きているのは、
「分かった」から「本当に違うんだ」への変化です。
この「確かめる」役割こそ、WebやAIで事前に情報を調べやすくなった時代の展示会では重要になっています。
AIとリアル展示会の役割分担について詳しく知りたい方は、AI時代の展示会|Web・AIとリアルをどう使い分けるかをご覧ください。
選ばれた後に期待を超えるのは「人・事例・個別提案・体験」
さらに、『展示会白書』では「期待以上だったと感じたブースの特徴」を来場者1,089名に複数回答で尋ねています。
上位は、
「開発者やエンジニアから直接話を聞けた」49.1%。
「他社では聞けない導入事例や活用ノウハウに触れられた」42.2%。
「自社の課題に合わせた具体的な提案をしてもらえた」34.3%。
「製品・サービスを実際に体験・操作できた」30.9%。
でした。
ここには、大型LEDビジョンも豪華な装飾もありません。
共通しているのは、その場に行ったからこそ得られる情報と体験です。
ぼくは、展示会のブースには二つの役割があると考えています。
一つ目は、選んでもらうこと。
二つ目は、選んでくれた人の期待を超えること。
前者には、ターゲットに刺さるキャッチコピーや展示内容が必要です。
後者には、実物、開発者、事例、個別の対話が必要です。
この二つをごちゃ混ぜにすると、「派手なブースをつくったのに商談につながらない」ということが起こります。
1ブースに使える時間も短い。だから「全部説明する」をやめる
来場者1,089名に1社あたりのブース滞在時間を尋ねると、「10~20分未満」が39.5%で最多、「5~10分未満」が36.8%でした。

合わせると76.3%です。
もちろん、すべての来場者がこの時間内で購買判断を完了するわけではありません。
でも、ブースで最初の価値判断をする時間は決して長くありません。
それなのに、展示商品を5種類並べ、会社沿革から説明し、すべての機能を順番に紹介する。
これでは時間が足りません。
ぼくなら最初に、
「今日はどんなことを探していらっしゃいますか?」
と聞きます。
そして、その答えに関係するものを一つ見せます。
5分しかないなら、その人に最も関係する5分にする。
15分あるなら、商品説明を15分するのではなく、途中から相手の話を聞く。
短いから急いで説明するのではなく、短いからこそ説明するものを減らす。
これが重要です。
選ばれるブースをつくる5つのチェックポイント
ここまでを、次回の展示会準備で使える形に整理します。
- 来場前に「この会社は見よう」と思う理由があるか
特に既存顧客、過去商談先、休眠顧客には、単なる案内ではなく、その相手に関係する来場理由を伝えます。 - 通路から「自分に関係がある」と分かるか
社名や商品名だけではなく、「誰の、どんな課題に役立つか」をキャッチコピーや展示物で伝えます。 - 見るだけでなく、来場者自身が確かめられるか
触る、動かす、比べる、食べる、診断するなど、短時間でも本人が参加できる体験を考えます。 - Webでは得にくい情報を用意しているか
開発者との対話、導入事例、失敗例、具体的な使い方など、「ここへ来た意味」がある情報を用意します。 - 全部説明せず、その人に関係する話へ絞れているか
限られた滞在時間の中で、相手の課題を聞き、その人に必要な情報から伝えます。
人が集まる展示会ブースの具体的な設計については、人が集まる展示会ブースをつくるコツでも詳しく解説しています。
展示会では「来場者数」より、自社がその人の訪問枠に入れるかを見る
「今回の展示会は来場者が5万人いるそうです」
出展前には、こういう数字がどうしても気になります。
でも、ぼくならもう一つの数字を見ます。
その5万人の一人ひとりは、実際に何社をちゃんと見るのか。
『展示会白書』では、「立ち寄った」と回答されたブースは4~10社に集中し、その一部は来場前から候補に入っていました。
だから展示会の成果を上げるには、
とにかく大勢に声をかける。
とにかくノベルティを配る。
とにかく派手にする。
だけでは足りません。
来場前に「見たい」と思ってもらう。
通路で「自分に関係がある」と気づいてもらう。
ブースで「来てよかった」と感じてもらう。
この順番で考えます。
ぼくは、展示会で本当に競っているのは「人通り」ではなく、来場者の限られた時間と関心の中に入れるかどうかだと思っています。
次回の展示会では、ブースをつくる前に一度こう問いかけてみてください。
「数百社ある中で、この人がうちを1社として選ぶ理由は何だろう?」
この答えが明確になると、事前案内、キャッチコピー、展示内容、体験、接客が一つにつながり始めます。
来場者のブース選びについてよくある質問
来場前から訪問候補に入っていなければ不利ですか?
事前候補に入ることは有利ですが、当日の偶然の発見も展示会の大きな価値です。だからこそ、会期前の事前集客と、会場で「自分の課題に関係がある」と気づいてもらう仕掛けの両方が必要です。
小さな1小間ブースでも選ばれますか?
十分可能です。来場者が重視しているのはブースの大きさそのものではなく、自社課題との関連、実物・デモ体験、その場でしか得られない情報などです。小規模ブースほど「誰に何を伝えるか」を絞りやすい面もあります。
ノベルティはやめた方がよいですか?
やめる必要はありません。ただ、ノベルティを渡した結果として名刺が増えたことと、自社への関心が高まったことは分けて考えます。ぼくは、自社の価値を体験してもらった後、その体験を思い出すものとしてノベルティを渡す使い方をおすすめしています。
WebやAIで事前に調べる人が増えると、展示会ブースは不要になりませんか?
役割が変わります。WebやAIは事前の探索・比較に便利です。一方、実物を試す、開発者と話す、自社の条件で使えるか確認するといったことは対面に向いています。詳しくは「AI時代の展示会」で整理しています。
※調査数値の出典:株式会社展示会営業マーケティング『展示会白書』。来場者調査は、直近1年以内にBtoB展示会へ業務目的で来場した会社員1,089名を対象に2026年4月に実施しています。「ブースに立ち寄る際に重視する要素」は上位3つまでの選択、「期待以上だったブースの特徴」は複数回答です。

展示会営業(R)コンサルタント。経済産業大臣登録中小企業診断士。詳細はウィキペディアご参照。
展示会をテーマとした著書5冊を含む合計7冊を執筆し、すべてAmazon部門1位を獲得している。執筆書籍は、すべてamazon部門1位を獲得しており、「日経MJ」、「NHKラジオ総合第一」他、多くのメディアで取材を受けている。1300社を超える展示会出展支援経験に基づく実践的なアドバイスが好評を博している。ほぼ毎週、東京ビッグサイトに出没する自称 展示会オタク。
