展示会営業®コンサルタントの清永です。
前回のコラムで、
「自社ブースに人垣をつくるには、来場者の『感情』を刺激することが重要だ」
と書きました。
今回は、この点についてさらに深掘りしていきます。
展示会では、パンフレットやパネルで商品のメリットを説明するだけでは、来場者が足を止めてくれないことがあります。そんなときに有効なのが、来場者自身が「触る」「動かす」「試す」「選ぶ」といった行動をする体験アトラクションです。
ただし、単にゲームを置いて人を集めればよいわけではありません。展示会営業®で考える体験アトラクションは、商品・技術・ノウハウの価値を身体で理解してもらい、その後の会話や商談につなげるためのものです。
清永健一の結論
展示会の体験アトラクションは、人を集めるためだけの余興ではありません。
来場者に「思わず触りたい」「やってみたい」と感じてもらい、商品や技術の価値を身体で理解してもらい、その体験をきっかけに会話を始めるための仕掛けです。
最も重要なのは、体験そのものと自社の商材・ノウハウ・次の一歩がつながっていることです。
展示会白書のデータ
来場者1,089名に「期待以上だった」と感じたブースの特徴を尋ねると、「製品・サービスを実際に体験・操作できた」30.9%でした。さらに、「開発者やエンジニアから直接話を聞けた」49.1%、「他社では聞けない導入事例や活用ノウハウに触れられた」42.2%という回答もあります。体験だけで終わらせず、体験をきっかけに専門的な対話や具体的な事例へつなげることが、満足度の高いブースづくりにつながります。
ブースに立ち寄ってもらうために正論より大切なもの
ぼくたちは、ビジネスにおいては、感情よりも理性を重視しがちです。
理性、正論を重視した結果、
- データ(実証、予測)
- ロジック
- 比較
- メリット
- こうすべき
といった要素を重視したパンフレットやプレゼンがビジネスの現場にあふれています。ビジネスの最前線である展示会場も、まさにこの状況です。
これらはもちろん重要です。購入検討が佳境に入った段階では、メリットや費用対効果を考えたいですし、購入にあたって社内で決裁をとるための稟議書はロジカルに書く必要があります。
でも、展示会で「来場者がどのブースに立ち寄るか?」については、理性や正論だけが決定打になるわけではありません。
「あのブース、なんとなく惹きつけられるなぁ」
「何をやっているんだろう?」
「ちょっと触ってみたい」
と思わせることが重要です。
そうです。来場者の感情を刺激することによって、自社ブースに人垣をつくるのです。
ただし、ここで「派手な演出をすればよい」と誤解してはいけません。展示会で有効な感情刺激は、単なる驚きではなく、商品や課題に関係する好奇心です。
たとえば、機械なら「このレバーを引くとどうなるんだろう」、素材なら「本当にこんなに軽いのか触ってみたい」、システムなら「自分のデータを入れると何が出るんだろう」と思わせる状態をつくります。
来場者の感情を刺激した3つの体験アトラクション事例
では、どうすれば来場者の感情を刺激するブースをつくることができるのでしょうか?
その答えのひとつが、ゲームやアトラクションなどの楽しい体験を提供することです。
事例1|英語学習アプリ×ダーツ
英語学習アプリを訴求するブースでは、アトラクションとしてダーツを行いました。
そして、ダーツで高得点を出した来場者に、自社の英語学習ノウハウの一端をまとめたシートをプレゼントしたのです。
ゲームそのものはダーツですが、景品を「どこでも買える粗品」にせず、英語学習ノウハウへつなげているところがポイントです。楽しさをきっかけに、自社の専門性へ触れてもらう流れになっています。

事例2|ごま屋さん×おみくじ
また、ごま屋さんでは、来場者を楽しませるアトラクションとして、おみくじを使いました。
自社のキャラクター「ごまやん」が持つすり鉢の中におみくじを入れておき、来場者に引いてもらうようにしたのです。
そのおみくじの裏面には、自社のごま豆腐やごまアイスなど、自社のごまを使った料理のレシピが掲載されています。
ここでも、「おみくじを引いて楽しかった」で終わりません。体験後に持ち帰る情報そのものが商品活用の提案になっています。つまり、アトラクションの出口に商品価値が置かれているのです。

事例3|業務用昇降棚×抽選くじ
他にも、業務用昇降棚を訴求するブースでは、脚立なしで上げ下ろしできる棚の上に抽選くじを置き、来場者さんに、棚を引っ張り下ろして、くじをひいてもらいます。
当たりくじの場合は、通常有料のスーパーのバックヤード診断を無料で行うのです。
この事例が特に重要なのは、アトラクションを行うための動作そのものが、製品体験になっていることです。
来場者は「昇降棚を体験してください」と説明される前に、くじを引くために棚を自分で下ろします。その瞬間に、操作の軽さや便利さを身体で理解できます。

よい体験アトラクションは「遊び」と「商材」が切れていない
展示会でゲームを用意すると人が集まることはあります。しかし、そのゲームと商材がまったく関係なければ、「ゲームをした人」は増えても、「商品を理解した人」は増えません。
たとえば、製造装置の会社が商品とは無関係な輪投げを行い、景品としてお菓子を配ったとします。人は集まるかもしれませんが、終了後に残るのは「輪投げをした」という記憶だけです。
一方、先ほどの昇降棚の例では、くじを取る行為そのものが製品操作になっています。ごま屋さんでは、景品そのものが商品の活用方法です。英語学習アプリでは、景品が自社ノウハウです。
この違いは大きいです。
体験アトラクションを考えるときは、次の順番で考えてください。
- 自社商品の一番伝えたい価値は何か
- その価値は、来場者がどんな行動をすれば体感できるか
- その行動を「やってみたい」と思わせる仕掛けは何か
- 体験後に、どんな会話へつなげるか
- 次に何を持ち帰ってもらうか
ゲームを先に考えるのではなく、伝えたい価値から逆算して体験をつくるのが基本です。
体験・アトラクションを受注につなげる3つのポイント
このような体験やアトラクションを効果的に行うポイントは、3つあります。
1.来場者が身体を動かす体験をつくる
1つ目は、来場者が身体を動かすような体験型のアトラクションをつくることです。
展示会場の人込みの中を練り歩き続けるのは、来場者にとって大きなストレスです。そんな中、身体を動かしてもらい、リフレッシュしてもらうことで、あなたの会社のブースを、他のブースとは異なる好印象とともに記憶してくれるようになります。
身体を動かすといっても、大がかりな運動である必要はありません。
- ボタンを押す
- レバーを引く
- 素材を触る
- 2つの商品を持ち比べる
- 画面を操作する
- 試食する
- 測定する
- 診断結果を見る
こうした数秒から数十秒の行動でも、「見るだけ」の展示から「自分が参加する展示」に変わります。
2.体験をにぎやかに行う
2つ目は、体験やアトラクションをにぎやかに行うことです。
マイクで実況中継するのもよいですし、高得点が出たときには、ハンドベルなどで祝福の鐘を高らかに鳴らしましょう。
人は、にぎやかなところに集まります。そして、人が集まれば、その集まった人垣がさらに人を呼ぶのです。
ただし、音量や演出は主催者ルール、周辺ブースへの配慮が前提です。大きな音だけで注意を引くのではなく、「何を体験しているのか」が外から見て分かる状態をつくってください。
3.景品は自社の専門性が伝わるものにする
3つ目は、単に体験やアトラクションを提供するだけではなく、体験やアトラクションの結果として、景品を用意するという点です。
その景品は、ただの粗品であってはいけません。
自社のノウハウがすぐれていることが伝わるような、ノウハウシート、レシピ、診断などを景品にするのです。
そうすることで、受注・成約までの動線がスムーズに進むようになります。
たとえば、
- チェックリスト
- 業界別の成功事例集
- 簡易診断
- 比較表
- サンプル
- 計算シート
- 技術資料
など、自社の強みを持ち帰ってもらえるものが有効です。
展示会白書のデータ
展示会で得た情報が購買意思決定に影響したと回答した来場者868名では、「実物を見たことで、導入への社内説得がしやすくなった」44.1%でした。また、「比較検討していた候補を絞り込む判断材料になった」63.5%、「展示会で初めて知った製品・サービスの導入を検討し始めた」35.3%という回答もあります。体験はその場を盛り上げるだけでなく、来場者が持ち帰って社内検討を進める材料にもなります。
体験は15秒で始められるくらいがちょうどいい
体験企画を考えるとき、つい凝った仕組みをつくりたくなります。しかし、展示会では来場者が何社ものブースを回っています。
最初の体験までに長い説明が必要だったり、申し込み用紙を書かなければならなかったり、5分の動画を全部見なければ参加できなかったりすると、ハードルが上がります。
おすすめは、15秒程度で「やってみる」状態へ入れることです。
「このレバーを引いてみてください」
「こちらを持ち比べてください」
「このボタンを押してください」
「ここに数字を入れてみてください」
と声をかければ、来場者がすぐ参加できます。
その後に「どうでしたか?」「今の違い、分かりましたか?」と聞けば、自然に会話が始まります。
ブースは会話を始める装置です。体験アトラクションは、その装置のスイッチだと考えると分かりやすいでしょう。
スタッフは体験を説明しすぎない
体験ブースでよくある失敗が、来場者が触る前にスタッフが全部説明してしまうことです。
「これは〇〇という製品で、こういう仕組みになっていて、ここをこう動かすと……」
と説明を続けると、来場者は「聞く人」になってしまいます。
まずは短く、
「15秒だけ触ってみてください」
でよいのです。
来場者が体験した後で、
- 「どう感じましたか?」
- 「普段使っているものと違いますか?」
- 「今の動き、御社ではどの工程に近いですか?」
と質問します。
説明→体験ではなく、体験→質問→必要な説明の順番にすると、会話が来場者中心になります。
「体験した人」を「自社が役立てる相手」へつなぐ
体験アトラクションを行うと、多くの人が集まる場合があります。ここで注意したいのは、集まった人すべてを同じ営業対象として扱わないことです。
ゲームが楽しいから参加した人、ノベルティに興味がある人、商品そのものに関心がある人、自社の課題を解決したくて来た人が混在しています。
体験後の短い質問で、
- どの点に興味を持ったのか
- 現在同じような業務・課題があるのか
- 今はどのように対応しているのか
- 自社が役立てる可能性があるのか
を確認してください。
自社が明確に役立てそうなら、資料・サンプル・技術回答・デモ・オンライン面談など次の一歩へ進めます。今回は役立てる可能性が低ければ、無理に名刺を求める必要はありません。
「人垣ができた=展示会成功」ではありません。体験から有効な会話が何件生まれ、次の行動へ何件進んだかまで見てください。
アトラクションを考えるための業種別アイデア
機械・設備
実際にレバーを動かす、ボタンを押す、交換作業を行う、作業時間を競うなど、操作そのものを体験にします。
素材・部品
重さを比べる、曲げる、触る、音を比較する、水をかける、熱を加えたサンプルを見るなど、性能差を五感で確かめてもらいます。
IT・システム
サンプルデータを入力し、診断結果や分析結果をその場で表示します。単なる画面デモではなく、来場者自身が入力・操作することがポイントです。
食品
試食だけでなく、食べ比べ、香りの比較、組み合わせ投票、簡単なレシピ診断など、商品の使い方まで体験できる仕掛けにします。
コンサルティング・無形サービス
簡易診断、チェックリスト、シミュレーション、課題分類など、「サービスを受けたらどんな気づきが得られるのか」を一部体験してもらいます。
無形サービスほど、説明だけになりやすいため、診断やワークを使って「見える体験」に変えることが有効です。
体験アトラクションで避けたい7つの失敗
1.商材と無関係なゲームだけで人を集める
人は集まっても、商品理解や商談につながりません。体験の動作・結果・景品のどこかを必ず商材につなげます。
2.参加するまでの説明が長い
体験までのハードルを下げ、数秒で始められる状態にします。
3.スタッフが全部操作してしまう
来場者自身に触ってもらうことが重要です。スタッフによるデモを見るだけでは、「自分の体験」になりにくくなります。
4.景品だけが豪華
景品目当ての人だけが集まる可能性があります。自社ノウハウや商品理解につながる特典を優先してください。
5.体験後の質問が決まっていない
体験後に「ありがとうございました」で終わると、営業につながりません。「どうでしたか?」から課題ヒアリングへつなぐ流れを用意します。
6.体験人数だけをKPIにする
「300人が体験した」だけでは成果が分かりません。有効会話数、次回アポ、商談化、案件化まで追います。
7.安全性や主催者ルールを確認しない
身体を動かす企画、音を出す企画、食品の試食などは、安全面や主催者規定を事前に確認してください。
体験アトラクションの設計チェックリスト
- 今回の展示会で最も伝えたい商品価値が明確か
- その価値を身体で体験できるか
- 15秒程度で体験を始められるか
- 通路から何をしているか分かるか
- 来場者自身が手を動かす設計になっているか
- 商材とゲーム・アトラクションがつながっているか
- 景品が自社ノウハウや商材理解につながっているか
- 体験後に聞く質問を決めているか
- 自社が役立てる相手かを確認できるか
- 資料、診断、サンプル、面談など次の一歩があるか
- スタッフが説明しすぎない設計になっているか
- 混雑したときの待機列を考えているか
- 安全性・主催者ルールを確認しているか
- 体験人数ではなく商談につながるKPIを決めているか
展示会の体験アトラクションに関するよくある質問
必ずゲームを用意しなければいけませんか?
必要ありません。ゲームは体験をつくる方法の一つです。商品を触る、操作する、比較する、試食する、診断するなど、来場者自身が参加できれば十分です。
真面目なBtoB商材でアトラクションをしても大丈夫ですか?
大丈夫です。むしろ、複雑なBtoB商材ほど、機能説明だけでは分かりにくいことがあります。性能差や業務改善効果を短く体験できる形へ変えると理解しやすくなります。
ノベルティを景品にしてもよいですか?
問題ありませんが、できれば商材や自社の専門性と関係するものを優先してください。事例集、診断、サンプル、ノウハウシートなども有効です。
体験は何分くらいがよいですか?
最初の参加ハードルは低くしてください。数秒~数十秒で始められ、その後、興味がある人だけ詳しいデモや説明へ進める二段階構成が使いやすいです。
人が集まりすぎた場合はどうすればよいですか?
体験担当と会話担当を分け、体験後の人を横へ流せる導線を用意します。入口に人が滞留して、新しい来場者が入れなくならないようにします。
体験した人には全員名刺交換をお願いした方がよいですか?
おすすめしません。体験後の会話で自社が役立てる可能性を確認し、その後の情報提供や面談が必要な相手と名刺交換します。
体験アトラクションは「人を集める仕掛け」ではなく「商材価値を身体で理解してもらう装置」
ブースで楽しい体験やアトラクションを行うことによって、ライバルのブースではなく、来場者はあなたの会社のブースに立ち寄るようになります。
ただし、本当に重要なのは、人垣そのものではありません。
感情を刺激する → 思わず体験する → 商材の価値を身体で理解する → 会話が始まる → 課題を聞く → 次の一歩へ進む
という流れをつくることです。
あなたの会社もぜひ試してみてください。
あなたの会社の展示会出展が成功することを心から願っています。
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展示会営業(R)コンサルタント。経済産業大臣登録中小企業診断士。詳細はウィキペディアご参照。
展示会をテーマとした書籍を5冊執筆している展示会の専門家。執筆書籍は、すべてamazon部門1位を獲得しており、「日経MJ」、「NHKラジオ総合第一」他、多くのメディアで取材を受けている。1300社を超える展示会出展支援経験に基づく実践的なアドバイスが好評を博している。ほぼ毎週、東京ビッグサイトに出没する自称 展示会オタク。
