Web広告、SEO、SNS、メールマーケティング。
デジタル施策に投資し、資料請求や問い合わせは増えた。しかし、思ったほど商談や受注につながらない。
そんな悩みを抱えているBtoB企業は、少なくありません。
一方で、生成AIやAI検索が普及し、顧客は営業担当者に会う前から、製品情報、価格帯、競合との違い、導入事例まで調べるようになりました。
営業が説明を始める前に、すでに比較が終わっている。
展示会へ来る前に、候補企業がある程度絞られている。
こうした状況も、珍しくなくなっています。
では、AIが情報を集めて比較してくれる時代に、営業担当者や展示会には、もう役割がないのでしょうか?
結論から言えば、その逆です。
AIが情報整理や比較を担うようになるほど、顧客固有の事情を聞き、判断を助け、信頼をつくる人間の役割が重要になります。
これからのBtoB営業に必要なのは、デジタルか展示会かという二者択一ではありません。
デジタルで接点を広げ、展示会で商談を深め、そこで得た一次情報をWebやAI検索の資産に変えることです。
本記事では、出展者536名、来場者1,089名を対象とした『展示会白書』の調査データをもとに、AI時代のBtoB営業をどのように設計すればよいのかを解説します。
AI時代のBtoB営業は「説明」だけでは価値を出しにくい
生成AIやAI検索が得意なのは、すでに公開されている情報を集め、整理し、比較することです。
- 製品の機能やスペック
- 価格帯
- 競合商品との違い
- 導入事例
- 口コミや評価
- 各社のメリット・デメリット
こうした情報は、営業担当者へ問い合わせなくても、ある程度まで調べられるようになりました。
顧客によっては、商談前にAIで比較表を作り、候補企業を絞り込んでいます。
その状況で、営業担当者がカタログに書いてある内容を最初から説明しても、顧客からは、
「それはもう調べました」
と思われてしまいます。
AI時代に価値を失うのは、営業という仕事そのものではありません。
公開情報を一方的に説明するだけの営業です。
情報が整理されることと、意思決定が進むことは別である
AIを使えば、商品の比較や候補の絞り込みは効率化できます。
しかし、情報が整理されたからといって、そのまま購入や導入を決断できるとは限りません。
特にBtoBの購買では、数十万円、数百万円、場合によっては数千万円の意思決定が行われます。
担当者の頭の中には、次のような不安があります。
- 本当に自社の業務に合うのか
- 既存設備やシステムと連携できるのか
- 現場の社員に使ってもらえるのか
- 社内の承認を得られるのか
- 導入後もきちんと支援してもらえるのか
- この会社や担当者へ任せても大丈夫なのか
こうした疑問への答えは、一般的なスペック比較だけでは見つかりません。
同じ商品を導入する場合でも、業界、社内体制、既存設備、承認手続き、現場の抵抗感によって、適切な進め方は変わるからです。
そこで営業担当者に求められるのが、商品説明ではなく、相手固有の事情を踏まえた判断支援です。
これからは「説明する営業」より「質問する営業」
AI時代の営業では、説明を増やすのではなく、質問を増やす必要があります。
たとえば、次のように聞きます。
- すでにどのような製品や会社を比較されていますか
- WebやAIで調べても、まだ判断できなかった点はどこですか
- 導入するうえで最も不安なことは何ですか
- 社内で導入を進める際、障害になりそうなことはありますか
- 現在の運用で、特に負担になっている部分はどこですか
こうした質問をすると、AIやWeb検索だけでは拾いにくい個別事情が出てきます。
- 業界特有の商習慣
- 複雑な社内承認フロー
- 既存システムとの連携条件
- 現場担当者の抵抗感
- 導入後の運用に対する不安
そのうえで、
「御社の場合は、一度にすべて切り替えるより、この工程から始める方が現実的です」
と返す。
これが、AI時代における営業の価値です。
展示会は、AI検索の後に残った不安を解消する場になる
AIが普及すれば、リアルな展示会は必要なくなる。
そう考える人もいるかもしれません。
しかし、『展示会白書』の調査では、AI時代における対面展示会の重要性が今後「高まる」と回答した割合は、出展者で69.6%、来場者で67.9%でした。
AIによって事前の情報収集が効率化されるからこそ、来場者は展示会場で、ネットだけでは判断できなかったことを確かめようとします。
- 実物の大きさや質感
- 操作性や使い勝手
- 自社の業務へ適用できるか
- 担当者の知識や対応力
- 導入後の姿を具体的に想像できるか
- 会社として信頼できるか
展示会は、商品の基本情報を初めて知る場から、WebやAIで調べた後に残った不安を解消する場へ変わりつつあります。
AI時代における展示会の役割については、「展示会白書 第6章 AI時代の展示会の位置づけ」でも詳しく分析しています。
デジタル施策だけでは、見込み客の温度感が見えにくい
デジタル施策には、広く接点をつくれるという大きな強みがあります。
- Web広告で認知を広げる
- SEO記事から資料請求を獲得する
- SNSで潜在顧客と接点を持つ
- メールで継続的に情報を届ける
しかし、デジタル上で獲得した一件のリードだけを見ても、その人の本気度は分かりません。
同じ資料請求でも、実際には次のような違いがあります。
- なんとなく資料をダウンロードした人
- 上司から情報収集を頼まれた人
- 半年後の導入を考えている人
- 来月中に候補企業を決めなければならない人
- 既存取引先に不満があり、代替先を探している人
デジタル上では、これらが同じ「1リード」に見えることがあります。
そのため、獲得したリードへ電話やメールを重ねても、なかなか商談へ進まないことがあります。
展示会では、数字に表れにくい温度感を確認できる
展示会では、来場者と直接話すことができます。
その場では、アクセス解析や顧客管理システムの項目だけでは分からない情報を得られます。
- 表情
- 声のトーン
- 質問の具体性
- 展示品を見る目線
- 同行者との会話
- 競合商品と比較しているポイント
「導入時期はいつですか」と聞いたときに、具体的な時期がすぐ返ってくる人と、「まだ何も決まっていません」と答える人では、温度感が異なります。
展示品の前で長く立ち止まり、運用方法、既存設備との連携、費用について詳しく質問する来場者は、具体的な課題を抱えている可能性があります。
限られた人数で営業する中小企業ほど、すべてのリードを同じように追いかけることはできません。
優先してフォローすべき相手を見極められることが、展示会の大きな価値です。
展示会はデジタル施策の代わりではない
ここで誤解してはいけないのは、「デジタル施策をやめて展示会へ戻る」という話ではないことです。
デジタルと展示会には、それぞれ異なる役割があります。
| 接点 | 主な役割 |
|---|---|
| Web・広告・SNS | 認知を広げ、見込み客との接点をつくる |
| AI検索 | 情報を整理し、比較し、候補を絞る |
| 展示会 | 実物、対話、体験を通じて、温度感と適合性を確認する |
| 営業フォロー | 顧客固有の事情に合わせ、案件化・受注へ進める |
これからのBtoB営業では、
デジタルで広げ、展示会で深め、営業で案件化する
という流れをつくる必要があります。
デジタルだけでは、商談化の部分が弱くなることがあります。
展示会だけでは、会期前の集客や会期後のフォローが不足し、名刺を集めただけで終わることがあります。
両者を一つの営業プロセスとして設計することで、初めてそれぞれの強みが生きます。
展示会の成果は、名刺の数だけでは測れない
展示会では、名刺獲得数が成果指標として使われがちです。
しかし、名刺交換や来場者バッジのスキャンは、必ずしも相手が商談を希望していることを意味しません。
『展示会白書』では、展示会後のフォローに不満を感じた来場者のうち、50.6%が「ブースで話した内容と無関係な営業をされた」、43.2%が「名刺交換しただけなのに強引な売り込みをされた」と回答しています。

重要なのは、名刺の数ではなく、次の情報です。
- 相手が何に困っていたか
- どの展示物に関心を示したか
- どの質問をしたか
- 次に何を約束したか
展示会リードを商談・受注へつなげる考え方については、「展示会白書 第8章 展示会成果を高める実践ステップ」もご覧ください。
展示会にはもう一つの価値がある――一次情報を集められること
展示会の価値は、見込み客と商談できることだけではありません。
来場者との対話を通じて、まだネット上に出ていない一次情報を集められることも大きな価値です。
ブースでは、来場者から次のような言葉が出てきます。
- 現在使っている製品のどこに不満があるのか
- 現場ではどのような作業に困っているのか
- 導入を止めている社内事情は何か
- カタログでは理解できなかったことは何か
- どのような条件なら導入を検討できるのか
- 競合製品のどこを評価しているのか
これらは、検索キーワード調査や競合サイトの分析だけでは拾いにくい情報です。
『展示会白書』では、来場者が「期待以上」と感じたブースの特徴として、「開発者やエンジニアから直接話を聞けた」が49.1%、「他社では聞けない導入事例や活用ノウハウに触れられた」が42.2%でした。

一方、「期待外れ」と感じた理由では、「展示内容がWebサイトで得られる情報と大差なかった」が35.1%となっています。

来場者が展示会に求めているのは、Webサイトに書いてある内容を読み上げることではありません。
その場でしか聞けない話、自社に当てはめた助言、担当者との対話から得られる納得感です。
展示会を一次情報の収集機会として活用する考え方については、「展示会を見れば「世の中」がわかる。一次情報の宝庫としての活用法」も参考になります。
AI検索に引用されるためには、自社にしかない情報が必要になる
AI検索は、すでにネット上にある情報を整理することは得意です。
一方で、展示会場へ足を運び、顧客の生の声を聞くことはできません。
そのため、AIに聞けばすぐに出てくる一般論だけを発信しても、他社との違いは生まれにくくなります。
AI時代に価値が高まるのは、自社にしか持てない情報です。
- 実際の顧客から聞いた悩み
- 商談で頻繁に聞かれる質問
- 導入前後で起きた変化
- 業界特有の課題
- 失敗した方法と改善内容
- 現場で反応のよかった説明
- 経営者や開発者だから答えられる知見
こうした一次情報を自社サイトで発信することで、読者にとっても、検索エンジンやAIにとっても、引用する理由のあるコンテンツになります。
SEOで大手企業や大手メディアと記事数やドメインの強さを競うのは、簡単ではありません。
しかし、展示会で来場者と直接話し、まだ世の中に出ていない悩みや質問を集めることは、中小企業にもできます。
むしろ、経営者、開発者、営業責任者がブースに立つ中小企業の方が、深い話を聞ける場合もあります。
展示会で得た一次情報を記事に変える7つの手順
展示会場で聞いた来場者の悩みは、次の流れで記事にできます。
- 展示会でどのような悩みを聞いたのかを示す
- 最初に確認すべき点を説明する
- その理由を解説する
- 同様の課題を持っていた事例を紹介する
- 取り組みによって生まれた変化を示す
- 実施時の注意点を書く
- 読者が最初に行うべきことを提示する
たとえば、展示会で、
「導入したシステムが現場に定着しない」
という相談が多かったとします。
その場合、
「システムが現場に定着しない会社が、最初に見直すべき3つのこと」
という記事にできます。
本文では、
- 展示会でよく聞いた悩み
- 起きている原因
- 自社としての見解
- 実際の導入事例
- 失敗しないための注意点
を整理します。
これだけでも、インターネット上の一般論をまとめただけの記事ではなく、自社独自の一次情報を含む記事になります。
会期後に整理すべき3種類の情報
展示会が終わったら、名刺だけを顧客管理システムへ登録するのではなく、会場で得た情報を整理してください。
特に、次の3つに当てはまる内容を探します。
- 多くの来場者が口にした悩み
- 自社の強みが伝わりやすかった質問
- 自社サイトやカタログにまだ書いていない内容
この3つが重なるテーマは、自社独自の情報として価値が高く、優先的に記事化するべきテーマです。
営業担当者だけで保有せず、マーケティング、開発、経営層とも共有しましょう。
展示会とWeb・AI検索を循環させる
『展示会白書』の来場者調査では、展示会来場後にWeb検索やAI検索で追加の情報収集を行った人が76.7%でした。
つまり、来場者の情報収集は展示会場で終わりません。
会場で気になった企業を、あとでWebやAIで調べる。
担当者から聞いた話を、他社の情報と比較する。
自社に戻り、社内の関係者へ説明するために、もう一度情報を確認する。
こうした行動が起きています。
理想的なのは、次の循環をつくることです。
- WebやAI検索で自社を知ってもらう
- 展示会で実物や担当者を確認してもらう
- 来場者の質問や悩みを集める
- 会期後、その内容を自社サイトの記事や事例へ反映する
- その情報がWeb検索・AI検索で見つかる
- 新たな見込み客が商談や次の展示会へ来る
- さらに現場で得た情報を次のコンテンツへ反映する
この循環ができれば、展示会は数日間だけのイベントではなくなります。
商談を生み出す場であると同時に、AI時代の情報資産をつくる場になります。
展示会後の来場者行動やフォローに対する評価については、「展示会白書 第5章後編 来場者の実態」で詳しく紹介しています。
AI時代の展示会で変えるべき5つのこと
1.商品説明を減らし、質問を増やす
来場者がすでに調べている基本情報を最初から説明するのではなく、WebやAIで調べても分からなかったことを聞きます。
2.名刺数だけでなく、相手への貢献可能性を確認する
質問内容、現在の不満、社内事情、次に約束したことを記録し、自社がお役に立てそうかどうかを確認します。
3.Webサイトに載っていない情報を提供する
開発者の説明、失敗事例、導入時の注意点、現場での工夫など、展示会だから聞ける情報を用意します。
4.会期前からデジタルで集客する
Webサイト、メール、SNSを使い、ブースで何を見られるのか、どのような相談ができるのかを具体的に伝えます。
5.展示会後に現場の声をコンテンツ化する
来場者の質問や悩みを、記事、FAQ、導入事例、営業資料、セミナーのテーマへ反映します。
デジタルと展示会をつなぐためのチェックリスト
- 会期前に出展情報をWebサイトへ掲載しているか
- ブースで何を確認できるかを具体的に発信しているか
- WebやAIで調べても分からなかったことを質問しているか
- 来場者の質問や悩みを記録しているか
- 見込み度や関心テーマを分類しているか
- 会話内容に合わせて展示会後のフォローを変えているか
- 会場で多かった質問をFAQへ反映しているか
- 来場者の言葉を自社サイトの記事へ反映しているか
- 展示会後に検索されることを前提に情報を整備しているか
- 次回の展示会へ情報をフィードバックしているか
AI時代の展示会営業に関するよくある質問
AIが普及すると、展示会の来場者は減るのでしょうか?
情報収集の一部はAIやWebへ移りますが、実物確認、体験、担当者との対話、自社への適合性確認まですべてをデジタルだけで完結するのは難しい場合があります。展示会には、AI検索後に残った疑問や不安を解消する役割があります。
デジタル施策と展示会のどちらを優先すべきですか?
どちらか一方ではなく、役割を分けて連動させることが重要です。デジタルで認知と接点を広げ、展示会で温度感を確認し、その後の営業フォローで案件化します。
展示会で集めた質問をそのまま記事にしてもよいですか?
個社名や個人が特定されないよう配慮したうえで、よくある質問や共通する課題として整理できます。自社の見解、事例、注意点を加えることで、独自性のある記事になります。
AI検索に引用されるには、何を書けばよいですか?
一般論だけでなく、自社が実際に経験した事例、独自調査、顧客からよく聞く悩み、具体的な数値、失敗例、改善方法などを明確に書くことが重要です。
展示会後、いつまでに情報を整理すればよいですか?
記憶が鮮明なうちに、できれば会期中または終了直後に整理します。来場者から多く出た質問や、反応のよかった説明を、その日のうちにスタッフ間で共有するとよいでしょう。
顧客の判断を助ける
AIによって、商品情報の収集や比較はますます効率化されます。
その結果、営業担当者が基本情報を説明するだけでは、価値を感じてもらいにくくなります。
これからの営業に求められるのは、顧客固有の事情を聞き、判断を助け、信頼をつくることです。
展示会は、その役割を短時間で発揮できる場です。
同時に、来場者の生の声や、まだ言語化されていない課題を集められる一次情報の宝庫でもあります。
AI時代のBtoB営業では、次の流れを設計することが重要です。
デジタルで接点を広げ、展示会で温度感を見極め、営業で案件化し、現場の一次情報をWeb・AI検索の資産に変える。
展示会を単発のイベントではなく、営業と情報発信を循環させる起点として活用してください。
本記事で紹介した調査結果は、出展者536名、来場者1,089名を対象とした『展示会白書』に収録しています。

展示会営業(R)コンサルタント。経済産業大臣登録中小企業診断士。詳細はウィキペディアご参照。
展示会をテーマとした著書5冊を含む合計7冊を執筆し、すべてAmazon部門1位を獲得している。執筆書籍は、すべてamazon部門1位を獲得しており、「日経MJ」、「NHKラジオ総合第一」他、多くのメディアで取材を受けている。1300社を超える展示会出展支援経験に基づく実践的なアドバイスが好評を博している。ほぼ毎週、東京ビッグサイトに出没する自称 展示会オタク。
