「うちは大企業みたいに、お金をかけられないから」
展示会の相談を受けていると、こんな言葉をよく耳にします。
「1小間しか出せない」
「営業マンが少ない」
「うちの商品は地味だから」
「競合みたいな派手なデモができない」
「知名度がないから、人が集まらない」
たしかに、その通りなのかもしれません。
予算もある。
人もいる。
知名度もある。
大きなブースも出せる。
そんな会社のほうが、展示会では有利に見えます。
でも、ぼくはそんな話を聞くたびに、こう思うのです。
本当に、その「ない」は不利なのでしょうか?
ひょっとすると、その「ない」があるからこそ、大企業とは違う戦い方を考えざるを得ない。
そして、その制約の中にこそ、
競合には真似できない売り方の種が眠っているのではないか。
そんなことを考えさせてくれる、少し変わったコーヒーがあります。
インドネシアの「コピ・ルアク」。
いわゆる、ジャコウネココーヒーです。
「普通の道」を塞がれたから、別の道が生まれた
コピ・ルアクについては、こんな逸話が広く伝えられています。
(余談ですが、ぼくはこの話を池井戸潤さんの小説、『ブティック』で知りました。企業のM&Aについて扱っていてとても面白かったです。)
オランダ植民地時代、インドネシアのコーヒー農園で働いていた現地の人々は、自分たちが栽培しているコーヒーを自由に飲むことができなかった。
目の前にはコーヒーがある。
自分たちで育てている。
でも、その豆を自由に使うことはできない。
そこで目をつけたのが、森に生息するジャコウネコでした。
ジャコウネコは熟したコーヒーの実を食べます。
果肉は消化されますが、種であるコーヒー豆は消化されず、糞と一緒に排出されます。
普通なら、
「糞の中にある豆なんて使えるわけがない」
と思うでしょう。
しかし、その豆を拾い、洗い、乾燥させ、焙煎して飲んでみた。
すると、通常とは異なる独特の香味があった。
こうしてコピ・ルアクが生まれた、と伝えられています。
ぼくが面白いと思うのは、珍しいコーヒーが誕生したことそのものではありません。
もっと手前です。
普通の方法を封じられたから、普通ではない方法を探した。
ここです。
もし最初から自由にコーヒー豆が使えていたら、誰もジャコウネコの糞を見ようとはしなかったかもしれません。
制約があった。
だから、誰も見ていなかった場所を見る必要が生まれた。
ぼくは、展示会営業もまったく同じだと思うのです。
成果が出ない会社ほど、「ないもの」を数えている
ぼくはこれまで1,300社を超える企業の展示会や営業活動を支援してきました。
そこで感じるのは、成果が出ない会社ほど、展示会に出る前から「ないもの」を数えてしまうということです。
「予算がない」
「人がいない」
「知名度がない」
「新製品がない」
「派手なデモができない」
「大きなブースが出せない」
そして、それらを全部持っている競合企業を見て、
「やっぱり、うちには難しいですね」
と結論づけてしまう。
でも、展示会で成果を出している中小企業は、必ずしも条件に恵まれている会社ではありません。
むしろ、
自社に何がないのかを理解したうえで、そこから違う勝ち方をつくっている会社
なのです。
ぼくが大切だと考えているのは、
制約をなくすことではありません。
制約から逆算して、
「だったら、どう戦うか?」
を考えることです。
1小間しかない。それなら「1つしか言わない」
たとえば、
「うちは1小間しか出せません」
という会社があったとしましょう。
そこで多くの会社がやってしまうのが、
大企業の巨大ブースを、そのまま小さくしたような展示
です。
壁には会社案内。
その横に製品一覧。
テーブルにはカタログ。
棚にはできるだけ多くの商品。
モニターでは会社紹介動画。
せっかく出展するのだから、
「あれも見せたい」
「これも知ってほしい」
となる。
その結果、小さなブースの中に情報がぎゅうぎゅうに詰め込まれてしまいます。
そして通路を歩いている来場者から見ると、
結局、何のブースなのか分からない。
これでは止まりません。
だったら逆です。
1小間しかないなら、
「1つしか言わない」
と決めればいい。
ぼくが展示会支援でお伝えしている、
「ワンブース・ワンアイテム・ワンターゲット」
という考え方です。
今回の展示会では、
1つのターゲットに、
1つの商品・サービスで、
1つの課題解決だけを伝える。
「あれもできます。これもできます」
ではなく、
「この悩みを持っている人だけ、来てください」
と絞り込む。
すると不思議なことが起こります。
「1小間しかない」という弱みが、
「伝えることを研ぎ澄ませざるを得ない」
という強みに変わるのです。
実際、『展示会白書』の来場者調査では、来場者がブースに立ち寄る理由として最も多かったのは、
「自分の課題に直結していると感じた」51.5%

でした。
巨大なブースだから立ち寄るのではありません。
派手だから立ち寄るのでもありません。
来場者は、
「これは自分のことだ」
と感じたブースに足を止めるのです。
つまり1小間でも、十分に戦える。
むしろ、1小間だからこそ、
「誰に、何を伝えるか」
を研ぎ澄ませることができます。
営業マンが少ない。それなら全員に声をかけなくていい
「展示会に出したいけれど、人が足りません」
これもよく聞きます。
大企業のブースを見ると、スタッフが10人、20人と並んでいる。
一方、自社から出せるのは3人。
「とても勝てない」
と思うかもしれません。
でも、本当にそうでしょうか。
人が少ないのであれば、
そもそも通行人全員に声をかける必要があるのでしょうか?
展示会では、
「とにかく多くの人に声をかけよう」
「とにかく名刺を集めよう」
となりがちです。
しかし、100人と名刺交換しても、そのうち誰とも次の話につながらなければ意味がありません。
それより、
本当に会いたい人が立ち止まるキャッチコピーをつくる。
来場者自身に、
「これは自分のためのブースだ」
と気づいてもらう。
そして、課題を持った人だけが入ってくるようにする。
それなら3人でも十分対応できます。
つまり、
「人が少ないからダメ」
なのではありません。
人が少ないからこそ、
「誰と会うべきか」を徹底的に考える必要が生まれる。
それが、展示会営業を研ぎ澄ませてくれるのです。
商品が地味なら、「商品」を主役にしなければいい
もうひとつ、よくある相談があります。
「うちの商品、展示会映えしないんですよ」
ネジ。
加工部品。
素材。
業務用ソフト。
物流サービス。
検査装置。
巨大ロボットや最新EVのように、置いておくだけで人だかりができる商品ではない。
たしかにそうかもしれません。
でも、これも本当に弱みなのでしょうか。
ぼくなら、
商品そのものを主役にしません。
その商品によって、
顧客の何が変わるのか
を主役にします。
「ネジを展示しています」
ではなく、
「設備停止を年間30時間減らしたい方へ」
と伝える。
「精密加工技術を紹介しています」
ではなく、
「他社から『加工不能』と言われた部品をお持ちください」
と伝える。
「業務システムを展示しています」
ではなく、
「毎月3日かかっている集計作業を、半日にしたい方へ」
と伝える。
地味な商品だからこそ、
商品を並べれば人が来る、という甘えが許されません。
だから必然的に、
「誰の、どんな困りごとを解決するのか」
を考え抜かなければならなくなる。
これもまた、
制約が価値を研ぎ澄ませているのです。
知名度がない。それなら「社名」を売らなくていい
「うちは有名企業じゃないので、人が来ないんですよ」
これもよく言われます。
だからブースの一番目立つ場所に、
「株式会社〇〇製作所」
と社名を大きく掲げる。
しかし、少し厳しい言い方をすると、
初めてその会社を知る来場者にとって、
知らない会社の社名には、ほとんど意味がありません。
知名度がない会社が、大企業と同じように社名を前面に出しても勝てない。
だったら、
社名を覚えてもらおうとするのをやめればいい。
代わりに、
来場者が毎日心の中でつぶやいている悩み
を大きく掲げる。
「検査工程の人手不足で困っていませんか?」
「小ロットなのに短納期を要求されていませんか?」
「展示会で名刺は集まるのに、商談につながっていませんか?」
こう書いてあったら、
会社名を知らなくても足を止めます。
知名度がないからこそ、
社名ではなく、顧客理解で勝つ。
これも、制約から生まれる戦い方です。
本当の差別化は、「何を持っているか」ではない
ここで、もう一度ジャコウネココーヒーに戻りましょう。
元のコーヒー豆だけを見れば、必ずしも唯一無二の豆だったわけではありません。
特徴を生んだのは、
「何を通ってきたか」
です。
一度、ジャコウネコの体内を通った。
そのプロセスによって、通常とは違うものになった。
ぼくは、企業も同じだと思っています。
会社の強さは、
「何を持っているか」だけではありません。
むしろ、
「何を通ってきた会社なのか」
に宿っていることがあります。
納期トラブルを何度も乗り越えてきた。
お客様から無理難題を言われ続け、そのたびに技術を磨いてきた。
大企業が断るような小ロット案件に対応し続けてきた。
失敗作を100個つくって、ようやく今の商品にたどり着いた。
人手不足だったから、自動化を極限まで進めた。
熟練工が辞めたから、誰でも作業できる仕組みをつくった。
全部、一見すると「苦労話」です。
ぼくはこういう話を聞くと、
「そこですよ」
と思います。
なぜなら、その苦労を通ったからこそ、
その会社には、
他社が簡単にはコピーできない技術や知恵や仕組みが生まれているからです。
AI時代だからこそ、「何を通ってきた会社か」が重要になる
これは、これからますます重要になると思っています。
価格。
サイズ。
処理能力。
納期。
材質。
対応範囲。
こうしたスペック情報は、Webで検索できます。
AIに聞けば、複数企業の商品を比較することもできます。
つまり、
スペックだけで勝負しようとすると、企業はますます比較表の中の1社になっていく。
では、何が残るのでしょうか。
「なぜ、この会社はこの技術に強いのか」
「なぜ、この商品はこんな細かいところまで工夫されているのか」
「なぜ、この会社の人たちは、顧客のこの悩みをこんなに深く理解しているのか」
その背景には、その会社が通ってきた歴史があります。
失敗があります。
顧客とのやり取りがあります。
現場で積み重ねてきた工夫があります。
これは、単なるスペック表では伝わりません。
そしてぼくは、
展示会とは、そうした「会社が通ってきたもの」を、目の前のお客様に直接伝えられる場所
だと思っています。
AIが二次情報を整理する時代だからこそ、
展示会では一次情報を伝える。
現物。
実演。
技術者の言葉。
顧客との対話。
失敗から生まれた工夫。
そこに、展示会の価値があります。
弱みを消すのではなく、弱みから逆算する
多くの会社は、自社の弱みをなくそうとします。
小さいから、大きく見せよう。
知名度がないから、有名企業っぽく見せよう。
商品が地味だから、派手な装飾をしよう。
人が少ないから、とにかく応援スタッフを集めよう。
もちろん、それが必要な場合もあります。
でも、その前に一度考えてほしいのです。
その弱み、本当に消す必要がありますか?
小さい会社だから、社長自身がお客様と直接話せる。
商品数が少ないから、1つの商品を誰より深く語れる。
人が少ないから、会いたい相手を徹底的に絞り込める。
予算が少ないから、装飾ではなく言葉を磨く。
知名度がないから、社名ではなく顧客の悩みを大きく掲げる。
これは、
「弱みを克服した」
のではありません。
弱みを起点に、別の勝ち方をつくった
のです。
ぼくは、この発想が中小企業の展示会ではとても重要だと思っています。
大企業と同じ条件で戦おうとしない。
大企業の縮小コピーにならない。
むしろ、
自社にしかない制約から、自社にしかない戦い方をつくる。
それが、中小企業の展示会営業です。
糞の中にある豆を、誰が拾うのか
普通の人なら捨ててしまう。
汚いと思う。
価値がないと思う。
ジャコウネコの糞の中に残ったコーヒー豆など、まさにそうでしょう。
でも、
誰かが拾った。
洗った。
焙煎した。
飲んでみた。
そして、
「これは違うぞ」
と気づいた。
企業の中にも、こうした
「まだ価値だと思われていないもの」
がたくさん眠っています。
営業マンが何気なくやっている工夫。
ベテラン社員しか知らない技術。
顧客から何度も聞かれる同じ相談。
不採用になった試作品。
過去のクレームをきっかけに改善した工程。
昔から当たり前すぎて、誰も強みだと思っていないサービス。
展示会の現場で、来場者から何度も繰り返される質問。
そういうものの中に、
新商品の種があるかもしれない。
新しいキャッチコピーがあるかもしれない。
新市場への入口があるかもしれない。
商機というものは、
いつもピカピカの状態で目の前に現れるとは限りません。
むしろ、
「こんなもの、価値があるわけがない」
と思っているものの中に落ちていることがあります。
閉塞したときこそ、「普通ではない道」を探せ
展示会で成果が出ない。
営業しても新規顧客が増えない。
価格競争になっている。
競合との差が出せない。
そんな閉塞感の中にいると、人はつい、
「もっと予算があれば」
「もっと人がいれば」
「もっといい商品があれば」
と、足りないものを求めます。
でも、本当に必要なのは、
「足りないものを手に入れること」
ではないのかもしれません。
今ある制約の中で、
「普通とは違う道はないか?」
と考えることなのかもしれません。
1小間しかないなら、1小間だからこそできる展示を。
営業マンが3人しかいないなら、3人だからこそできる接客を。
商品が地味なら、商品そのものではなく、顧客の変化を伝える訴求を。
知名度がないなら、社名ではなく来場者の悩みを掲げるブースを。
制約は、可能性を奪うものではありません。
むしろ、
「普通の会社と同じことをしてはいけない」
と教えてくれているのです。
あなたの会社が今、
「これがないから無理だ」
と思っているものは何でしょうか。
その「ない」を、いったん逆から眺めてみてください。
そこに、
競合には簡単に真似できない、
あなたの会社だけの勝ち方が隠れているかもしれません。
苦難を通ってきた豆が、元の豆とは違う味わいを持つように。
会社も、人も、商品も、
困難を通ったからこそ、
以前にはなかった強さを身につけることがあります。
そして展示会とは、
その「通ってきたもの」を、
目の前のお客様に直接伝えられる場所なのです。
だからぼくは、展示会に出る会社にこう言いたい。
「ないもの」を嘆くのは、もうやめましょう。
大切なのは、
「何がないか」ではありません。
その制約から、どんな勝ち方をつくるか。
商機は、ときとして、
誰も見向きもしない場所に落ちています。
糞の中の豆を拾った人だけが、
その価値に気づけるように。

展示会営業(R)コンサルタント。経済産業大臣登録中小企業診断士。詳細はウィキペディアご参照。
展示会をテーマとした著書5冊を含む合計7冊を執筆し、すべてAmazon部門1位を獲得している。執筆書籍は、すべてamazon部門1位を獲得しており、「日経MJ」、「NHKラジオ総合第一」他、多くのメディアで取材を受けている。1300社を超える展示会出展支援経験に基づく実践的なアドバイスが好評を博している。ほぼ毎週、東京ビッグサイトに出没する自称 展示会オタク。
