「用具係がそんなんで勝てるのか?」という問い
サッカー日本代表に関する番組で、とても印象に残る話がありました。
岡田武史監督が日本代表を率いていた当時の話です。
あるとき、裏方としてチームを支えていたキットマネージャー(スパイクなどの用具全般を管理する専門スタッフ)の方が、
岡田監督からこう言われたそうです。
「用具係がそんなんで勝てるのか?」
この言葉を聞いて、その人はハッとしたと言います。
それまで彼は、無意識のうちに、自分の仕事をこう捉えていたそうです。
自分は用具係である。
だから、ボールを管理する。
ユニフォームを準備する。
スパイクや備品を整える。
選手が練習や試合に集中できるように、道具をきちんと用意する。
もちろん、それはとても大切な仕事です。
日本代表という極限の現場では、用具の管理ひとつにも妥協は許されません。
忘れ物があってはいけない。
準備不足があってはいけない。
選手が安心してピッチに立てる環境を整えることは、間違いなく重要な役割です。
でも、岡田監督の言葉は、そこでもう一段深い問いを投げかけていたのです。
「あなたの仕事は、本当にそこまでなのか?」
「用具を管理することだけが、あなたの役割なのか?」
「日本代表が勝つために、あなたにはもっとできることがあるのではないか?」
その言葉をきっかけに、そのキットマネージャーの方は、自分の役割を捉え直したそうです。
自分は監督ではない。
コーチでもない。
メディカルスタッフでもない。
けれど、だからこそできることがある。
監督やコーチには言いづらい悩みがあるかもしれない。
メディカルスタッフに相談するほどではないけれど、少し気になっている体調の違和感があるかもしれない。
試合に出られるかどうか、コンディションはどうか、チーム内での立ち位置はどうか。
選手は、表には出さない小さな不安を抱えているかもしれない。
そうした声を、用具係という立場だからこそ聞けるのではないか。
選手にとって身近な存在だからこそ、ふっと本音や愚痴をこぼしてもらえるのではないか。
その小さな不安に寄り添うことが、結果的に選手のパフォーマンスを支え、日本代表の勝率を上げることにつながるのではないか。
そう考えるようになってから、その人は、一層充実感を持って仕事に取り組めるようになったそうです。
ぼくはこの話を聞いて、思わず「まさにこれだ」と感じました。
なぜなら、これはサッカー日本代表だけの話ではないからです。
会社でも、チームでも、展示会出展でも、まったく同じことが起こっているからです。
「自分は会社に影響力がある」と気づいた人から、会社は変わる
よく、こんなことを言う人がいます。
「うちの会社は雰囲気が暗い」
「うちの部署は元気がない」
「うちのチームは前向きじゃない」
「うちの会社は変わらない」
気持ちはわかります。
実際に、そう感じる職場もあるでしょう。
空気が重い。
会議で意見が出ない。
新しいことを言い出しにくい。
誰かが何かを変えてくれるのを、みんなが待っている。
そういう組織は、たしかにあります。
でも、ぼくはそういう話を聞くたびに、いつも思うことがあります。
「いやいや、君も会社の一部だよ」と。
会社の雰囲気が暗いと言っているその人自身も、その会社の一部です。
部署に元気がないと言っているその人自身も、その部署を構成する一人です。
チームが前向きじゃないと感じているその人自身も、そのチームの空気をつくっている一人です。
だから、もし本当に「うちの会社は暗い」と思うのであれば、まず自分が率先して明るくふるまってみればいいのです。
朝、少しだけ元気に挨拶する。
会議で一言だけ前向きな意見を出す。
誰かの小さな努力に気づいて声をかける。
困っている人に「大丈夫?」と聞いてみる。
新しい取り組みに対して、最初から否定せずに「おもしろそうですね」と言ってみる。
それだけで、空気は少し変わります。
もちろん、ひとりの行動で会社全体が一瞬で変わるわけではありません。
でも、ひとりの行動が、隣の人の気持ちを変えることはあります。
隣の人の気持ちが変われば、そのまた隣の人の言動も変わるかもしれません。
そうやって、組織の雰囲気は少しずつ変わっていきます。
つまり、ひとりの人間には、組織全体を変える力があるのです。
これは、きれいごとではありません。
ぼくは多くの企業の展示会出展を支援する中で、そのことを何度も見てきました。
展示会出展は、会社の中で普段見えにくくなっている力を引き出す場でもあるのです。
通常の仕事では、役割が決まっています。
営業は営業。
開発は開発。
製造は製造。
購買は購買。
総務は総務。
経営者は経営者。
もちろん、職務分掌は必要です。
誰が何を担当するのかが明確でなければ、仕事は進みません。
しかし、職務分掌が強くなりすぎると、人は無意識のうちにこう考えるようになります。
「これは自分の仕事ではない」
「そこは営業の仕事だ」
「それは製造が考えることだ」
「それは上司が決めることだ」
「自分は言われたことをやればいい」
こうなると、組織の力は小さくなっていきます。
本当はもっといいアイデアを持っている人がいる。
本当はお客様のことをよく理解している人がいる。
本当は現場で起きている課題に気づいている人がいる。
本当は会社をもっとよくしたいと思っている人がいる。
でも、「自分の仕事ではない」と思った瞬間に、その力は表に出なくなります。
展示会出展のすばらしいところは、そこを突破できることです。
展示会は、ただブースを出すだけのイベントではありません。
会社の魅力をどう伝えるか。
誰に来てほしいのか。
その人は何に困っているのか。
自社の商品やサービスは、その人にどう役立てるのか。
どんな言葉なら足を止めてもらえるのか。
どんな展示なら関心を持ってもらえるのか。
どんな接客なら「もっと話を聞きたい」と思ってもらえるのか。
こうしたことを、出展チーム全員で考える必要があります。
そのとき、普段の肩書きや部署の枠を超えた意見が必要になります。
営業担当者だけが考えても、よいブースにはなりません。
商品を深く知っている開発や製造の人の視点が必要です。
お客様からよく聞かれる質問を知っているメンテナンス担当の声も重要です。
デザインや開発の視点が入ることで、伝わり方は大きく変わります。
会社の理念や強みを言語化できる経営者の関与も欠かせません。
展示会出展は、一人ひとりが組織を変える力に気づく場である
ここが大事なのですが、展示会出展では、意見が比較的取り入れられやすいのです。
「ブースの見せ方をこうした方がよいのではないか」
「この言葉の方が来場者に伝わるのではないか」
「最初の声かけは、こうした方が入りやすいのではないか」
「この実物を前に出した方が、足を止めてもらえるのではないか」
「この質問をすると、お客様の課題を聞き出しやすいのではないか」
こうした意見が、実際のブースづくりや接客トークに反映されることがあります。
普段の業務では、自分の意見が会社全体に影響を与えている実感を持ちにくい人もいます。
けれど、展示会では違います。
自分が出したアイデアが、ブースのキャッチコピーになる。
自分が提案した展示方法で、来場者が足を止める。
自分が考えた接客トークで、お客様がうなずく。
自分が拾った来場者の声が、次の商品改善につながる。
そういうことが、本当に起こります。
その瞬間、人は気づきます。
「あれ、自分の意見って、会社の役に立つんだ」
「自分にも、会社を少し動かす力があるんだ」
「自分の仕事は、決められた作業をこなすだけではないんだ」
この気づきは、とても大きいです。
まさに、岡田監督に「用具係がそんなんで勝てるのか?」と言われたキットマネージャーの方が、自分の役割を捉え直したのと同じです。
用具を管理するだけが仕事ではない。
日本代表が勝つために、自分にできることはもっとある。
それと同じように、展示会出展に関わる一人ひとりも、気づくことができます。
自分は営業ではないから関係ない。
自分は製造だから接客は関係ない。
自分は若手だから意見を言う立場ではない。
自分は裏方だから表に出る必要はない。
そうではありません。
展示会は、会社全体で成果を出しにいくプロジェクトです。
そこでは、誰か一人だけが主役なのではありません。
ブースに立つ人も、準備する人も、資料をつくる人も、展示物を運ぶ人も、接客トークを考える人も、フォローを担当する人も、全員が成果に関わっています。
もっと言えば、全員が「勝率」を上げることができます。
サッカー日本代表において、キットマネージャーが選手の不安に寄り添うことでチームの勝率を上げられるように、展示会でも、一人ひとりの小さな工夫が出展成果を変えます。
声のかけ方を少し変える。
来場者の表情をよく見る。
相手の悩みを先に聞く。
商品の説明を急がず、相手の状況を理解する。
接客後のメモを丁寧に残す。
フォロー担当に来場者の温度感をきちんと伝える。
「このお客様には、この事例が合うと思います」と一言添える。
そうした小さな行動が、商談化率を変えます。
受注率を高めます。
お客様の印象を変えます。
そして、会社の雰囲気を変えます。
展示会出展の本当の価値は、リードを獲得することだけではありません。
受注し、売上を上げることだけでもありません。
もちろん、商談を生み、売上につなげることは重要です。
しかし、それと同じくらい大切なのは、出展準備と会期中の活動を通じて、社員一人ひとりが「自分も会社を動かす一員なのだ」と実感できることです。
展示会は、日頃の職務分掌を超えて考えざるを得ない場です。
自社の強みを考える。
お客様の悩みを考える。
伝え方を考える。
チームで成果を出す方法を考える。
自分の役割を超えて、会社全体の勝ち方を考える。
だからこそ、展示会出展は組織を強くします。
「うちの会社は暗い」と愚痴を言う人がいたら、ぼくはこう伝えたいです。
あなたも、その会社の一部です。
あなたの一言で、空気は少し変わるかもしれません。
あなたの行動で、隣の人が前向きになるかもしれません。
あなたの工夫で、お客様の反応が変わるかもしれません。
あなたのアイデアで、展示会の成果が変わるかもしれません。
たった一人でも、組織全体を変える入口になれます。
それは、すごいことです。
展示会出展は、そのことを実感しやすい機会です。
自分の意見がブースに反映される。
自分の工夫が来場者の反応を変える。
自分の役割を超えた一歩が、会社の成果につながる。
その経験をした人は、展示会が終わった後も変わります。
「自分の仕事はここまで」と線を引くのではなく、
「会社がよくなるために、自分にできることは何か」と考えるようになります。
展示会は、商品を売る場であると同時に、人が自分の可能性に気づく場でもあります。
そして、組織が「自分たちはもっとやれる」と思い出す場でもあります。
だからぼくは、展示会出展を単なる販促活動だとは考えていません。
展示会は、会社の中に眠っている力を引き出すプロジェクトです。
「用具係がそんなんで勝てるのか?」
この問いは、サッカー日本代表だけに向けられたものではありません。
営業がそんなんで勝てるのか。
製造がそんなんで勝てるのか。
技術がそんなんで勝てるのか。
若手がそんなんで勝てるのか。
裏方がそんなんで勝てるのか。
経営者がそんなんで勝てるのか。
そして、展示会チームがそんなんで勝てるのか。
この問いを、自分ごととして受け止めたとき、仕事はもっとおもしろくなります。
役割はもっと広がります。
チームはもっと強くなります。
そう考えると、展示会はただのイベントではありません。
一人ひとりが、自分の力を思い出す場です。
そして、会社全体が前向きに変わり始める場なのです。
あなたの展示会出展を心から応援しています!!
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展示会営業(R)コンサルタント。経済産業大臣登録中小企業診断士。詳細はウィキペディアご参照。
展示会をテーマとした書籍を5冊執筆している展示会の専門家。執筆書籍は、すべてamazon部門1位を獲得しており、「日経MJ」、「NHKラジオ総合第一」他、多くのメディアで取材を受けている。1300社を超える展示会出展支援経験に基づく実践的なアドバイスが好評を博している。ほぼ毎週、東京ビッグサイトに出没する自称 展示会オタク。

