2026年4月17日、展示会業界にとって見逃せないニュースが飛び込んできました。
経済ニュース番組:WBSの人気コーナー「トレンドたまご」でも取り上げられていました。
そのニュースとは、博展、we+、セメダインの3社が共同開発した海藻由来のバイオマス接着剤、「LOOPGLUE(ループグルー)」の発表です。
一見すると、「なんだ・・・接着剤の話か」と思う方もいるかもしれません。
でも、ぼくはこのニュースを読んで、すぐにこう感じました。
これはただの接着剤の話ではない。展示会のビジネスモデルそのものを変える可能性を持った技術だ。
今回はその理由を、展示会の専門家として詳しくお伝えしたいと思います。
そもそも、展示会における「廃棄問題」とは何か
展示会に出展したことがある方なら、よくわかると思います。
ブースを作り込んで、来場者と熱い会話をして、商談の手応えを感じて、さあ撤収だ──という瞬間に、一気に現実に引き戻される感覚。
木材パネル、グラフィックボード、装飾材。あれだけ一生懸命作ったものが、イベント終了後には大量の廃棄物として積み上がっていく。
なぜ再利用できないのか?
その答えのひとつが「接着剤」です。
従来の石油系接着剤は、接着力が強い反面、剥がす際に素地を傷めてしまいます。きれいに剥がせない。だから資材を再利用できる状態で回収できない。だから廃棄するしかない。
このシンプルな構造が、展示会業界に長年積み重なってきた「使い捨て問題」の根本原因でした。
コスト的にも、環境的にも、この構造は持続可能ではありません。
LOOPGLUEは、まさにこの「根本原因」に直接メスを入れた技術です。
LOOPGLUEとは何か
LOOPGLUEの最大の特徴は、「しっかり接着できるのに、水で簡単に剥がせる」という、一見矛盾する2つの機能を両立している点です。
素材は、海藻に含まれる粘着成分。特に「アルギン酸ナトリウム」という海藻由来の成分が、優れた粘着性を示すことが研究で判明しました。
とはいえ、最初からうまくいったわけではありません。
開発のきっかけは、ちょっとした雑談でした。2023年9月の国際海洋環境デザイン会議で、海苔を使ったテーブル天板を制作した展示の打ち上げの席で、「海藻のネバネバを接着剤に使えないか」という議論が生まれたのです。
着目したのは、日本の「とろろ昆布」の製法です。何枚もの昆布を重ねて圧縮し、薄く削り出して作るとろろ昆布。その製造過程で昆布同士を密着させているのは、昆布が持つ天然の粘着成分だけです。この粘性を抽出し、新たな接着剤に応用できないか。ここから開発がスタートしました。
しかし、アルギン酸ナトリウム単体では接着強度が足りない。
そこで合流したのが、100年以上の歴史を持つ接着剤メーカー・セメダインです。セメダインの組成設計技術により、アルギン酸ナトリウムに他の自然由来材料を複合化。自然由来材料100%を維持したまま、実用レベルの接着強度を実現しました。
セメダイン製品部の西村香菜氏は、「解体されることまでを設計の前提とした接着剤は画期的なアイデアだった」と振り返っています。
この言葉に、ぼくは強くうなずきました。
「解体を設計の前提とする」。これがこの技術の本質です。
技術の信頼性は担保されているか
新しい素材の話を聞くと、「本当に使えるのか」という疑問が当然出てきます。
ぼくも同じです。展示会の現場で実際に使えなければ、どれだけ理念が正しくても意味がない。
物性検証の結果を見ると、LOOPGLUEは通常状態だけでなく、高温多湿(温度50℃・湿度85%)という過酷な環境下でも、一般的な接着剤と同等レベルの接着強度を発揮しているとのことです。
さらに半屋外環境での半年間にわたる耐久試験では、湿気によるしわや剥がれなどのトラブルは一切発生しませんでした。
使い方もシンプルです。
接着時は、接着面に薄く均一に塗布して数分から数十分静置するだけ。紙や表具の場合は水で3倍に希釈して使います。剥離時は、接着部分に水を含ませて数分放置すれば、素地を傷めることなくスムーズに剥がれます。残った接着剤も水で軽く拭き取るだけで除去できます。
ただし、適用素材に制限があることは知っておく必要があります。LOOPGLUEは紙や木材といった多孔質材料同士の接着に適しています。金属や樹脂などの非多孔質素材への適用は現状では難しい。
とはいえ、展示会ブースの主要素材は木製パネルや紙素材が中心ですから、実用上の問題は限定的です。
展示会出展者にとっての「本当のメリット」
博展の試算によれば、LOOPGLUEの活用により、木材の資材調達費と製作人件費がそれぞれ約15%削減できる見通しです。
これは単なる接着剤のコストダウンではありません。「資材の再利用」によって実現される削減です。
でも、ぼくが注目したいのは、コスト削減そのものより、その先にある構造変化です。
展示会において、最も疲弊する瞬間はいつか。
ぼくは断言します。それは「撤収」です。
短時間での撤収、廃材処理、人手不足、コスト負担。展示会の「撤収」というフェーズは、これまでずっと「仕方ないもの」として扱われてきました。
出展が終わったあとの疲労感と廃棄物の山。あの光景を見るたびに、「なんとかならないか」と思ってきた展示会関係者は多いはずです。
LOOPGLUEは、この「仕方なかったもの」を変えます。
工具不要で解体でき、廃棄物が減り、人手も減る。そうなれば、展示会のコスト構造そのものが変わります。
これは単なる効率化ではありません。「出展することへの心理的ハードル」が下がるのです。
中小企業にとっての意味
展示会において、中小企業が出展を躊躇する理由は大きく3つあります。
コスト・人手・準備と撤収の負担。
今回の技術は、このうち少なくとも2つに直接効きます。コスト削減と、撤収負担の軽減です。
つまり、「出展しない理由」が一つずつ消えていく。
これは、ぼくにとって非常に重要なポイントです。
展示会は、本来「強い企業のための場」ではありません。むしろ、「想いがある、技術がある、でも営業力が弱い」という企業が世の中に出るための舞台です。
ぼくはこれまで1,300社以上の展示会出展を支援してきましたが、その中には「コストがかかりすぎる」「撤収が大変すぎる」という理由で出展を諦めた中小企業が何社もありました。
その舞台に立つハードルが下がる。
これは業界全体にとって、大きな意味を持ちます。
「サステナブル」は、見せる価値になる
環境価値についても触れておきたいと思います。
LOOPGLUEは自然由来材料100%のバイオマス接着剤です。廃棄性にも優れています。ESG(環境・社会・ガバナンス)が重視される現代、企業の環境への取り組みはブランド価値に直結します。
ただ、ここで重要なのは「環境に良い」という事実そのものではありません。
展示会においては、それが来場者に伝わるかどうかがすべてです。
考えてみてください。
「このブース、全部水で分解できる素材を使っています」
「廃棄物ゼロ設計のブースです」
こういうストーリーが来場者に伝わったとき、何が起きるか。強い共感が生まれます。
「使い捨て」から「循環型」への転換を、ブースそのものが体現している。それは単なる装飾以上の訴求力を持ちます。
つまりこの技術は、「ブースの裏側の効率化」だけでなく、「表側の訴求力」にも転換できるのです。
展示会という「見せる場」だからこそ、環境配慮の取り組みが可視化され、企業価値の向上につながります。
展示会は「構造で勝つ」時代へ
ここで、ぼくが感じている大きな気づきをお伝えしたいと思います。
展示会で成果を出す企業は、派手な装飾をしている企業でも、予算をかけている企業でもありません。「構造を設計している企業」です。
LOOPGLUEの話は、まさにそれを示しています。
組み立てやすい、壊しやすい、環境に優しい、コストが下がる。
これはすべて「構造の設計」です。
ぼくは長年、「展示会は引き算の美学だ」とお伝えしてきました。
装飾を足すより、何を削ぎ落とすかを考える。来場者に届けるメッセージを一つに絞る。
1ブース=1アイテム=1ターゲット
ぼくのセミナーを聞いたことがある方なら必ず聞いたことがあるはずです。
LOOPGLUEが示す設計思想も同じです。「壊すこと」を前提に作る。これは、展示会の評価軸そのものの転換です。
従来の評価軸は明確でした。「どれだけ目立つか」「どれだけ強固に作れるか」「どれだけ来場者を引きつけられるか」。
つまり、「作る技術」にフォーカスされてきました。
しかし、LOOPGLUEが示しているのは逆です。「水で簡単に剥がせる」「解体が容易」「コストが削減される」。
これは「壊すことを前提とした設計思想」です。
これからの展示会は、「どう見せるか」の競争から「どう設計するか」の競争へ移行していく可能性が高い。ぼくはそう感じています。
業界全体への波及を期待したい
博展は、自社管理下で行う全ての表具工事においてLOOPGLUEを標準採用する方針を発表しました。全体の約3割に相当します。
3社は現在特許を出願中であり、LOOPGLUEの活用を希望する他社への製品展開も積極的に進めていく構えです。
博展サステナビリティ推進部の鈴木亮介氏は、「LOOPGLUEをわれわれのみで独占するのではなく、より多くの方々に活用されることで、循環型経済の実現に向けた実践的な一歩となり、業界内外に新たな動きを生み出していくことを強く期待している」と語っています。
この姿勢は重要です。
技術は、使われてはじめて価値になります。一社が独占しても、業界は変わりません。
日本国内だけでも、年間に開催される展示会は大規模なものだけでも900件以上もあります。それぞれで大量の資材が使われ、多くが廃棄されている現状を考えると、LOOPGLUEが業界標準になった場合の環境負荷削減効果は計り知れません。
ぼくは、この技術が業界全体に広がることを強く期待しています。
出展者が今すぐできること
では、実際に展示会に出展する企業として、今何ができるか。
まず、次回の出展計画を立てる際に、施工会社や装飾会社に「循環型素材」や「LOOPGLUE」について相談してみてください。すでに一部の施工会社では導入が始まっており、今後さらに広がることが予想されます。
「うちには木工ブースなんて関係ない。安価なシステムブースだ」と思った方がおられるかもしれません。でもちょっと待ってください。そう思った方に、ぼくはお聞きしたい。
「システムブースの壁面に掲示するパネルやポスターを毎回使い捨てにしているのではないですか?」
もしそうなら、そこは改善ポイントです。防炎トロマットのタペストリを壁面に境目なく吊るしましょう。そうすれば、パネルやポスターとちがって、壁面全体をつかってメッセージを伝えることができます。しかもそのタペストリは再利用可能です。
「循環型素材」や「LOOPGLUE」だけの話ではないのです。展示会業界に蔓延る使い捨て発想から脱却して、再利用可能な状態にできないかをゼロベースで考えることこそが重要なのです。
次に、自社のサステナビリティ方針を明確にし、資材の再利用や環境配慮を重視する姿勢を社内外に示すことです。展示会での環境配慮の取り組みは、CSRレポートや会社案内にも記載できる具体的な事例になります。
そして、もう一歩踏み込んで考えるなら、
「この技術をどうブースのストーリーに変換するか」
ここに勝負どころがあります。
技術は、それ単体では伝わりにくい。しかし「意味」を与えた瞬間に、強力な訴求ツールになります。
「剥がせる」という機能ではなく、「未来の社会のあり方を示すメッセージ」として使えるかどうか。そこに、出展成果の差が生まれてくるのです。
「作っては壊す」から「作って、使って、また使う」へ
海藻由来接着剤「LOOPGLUE」の登場は、展示会業界における資源循環の新たな可能性を示しています。
ぼくがこの技術に注目する理由を、最後にまとめます。
コスト削減(資材費・人件費で約15%削減)、環境配慮によるブランドイメージ向上、施工・撤収作業の効率化。この3つの価値は、数字としてわかりやすい。
でも、その先にある本質的な意味は、もっと大きい。
展示会の構造そのものが変わる可能性があります。「作っては壊す」という使い捨て型から、「作って、使って、また使う」という循環型への転換。これは単なる素材の変更ではなく、展示会業界のビジネスモデル自体の変革を意味しています。
展示会は、製造・物流・人材・環境のすべてが交差する「総合現場」です。だからこそ、このような素材技術は「材料の進化」にとどまらず、「展示会というビジネスモデルの進化」につながっていきます。
ぼくは1,300社以上の展示会出展を支援してきました。その経験から言えるのは、展示会で本当に成果を出す企業は、常に「構造から考える企業」だということです。
LOOPGLUEは、その「構造から考える」ための新しい選択肢をぼくたちに与えてくれています。
次回の出展からぜひ、循環型素材の活用を検討してみてください。
持続可能な展示会の未来は、一つ一つの出展の選択から始まります。
あなたの展示会の成功を心から応援しています!
【参考記事】 https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2604/17/news049.html
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展示会営業(R)コンサルタント。経済産業大臣登録中小企業診断士。詳細はウィキペディアご参照。
展示会をテーマとした書籍を5冊執筆している展示会の専門家。執筆書籍は、すべてamazon部門1位を獲得しており、「日経MJ」、「NHKラジオ総合第一」他、多くのメディアで取材を受けている。1300社を超える展示会出展支援経験に基づく実践的なアドバイスが好評を博している。ほぼ毎週、東京ビッグサイトに出没する自称 展示会オタク。

