成功体験があれば企業は変われる!

成功体験があれば企業は変われる!

ジェトロ(日本貿易振興機構)

市場開拓・展示事業部長 吉村 佐和子様

【ジェトロ(日本貿易振興機構)】

2003年10月、日本貿易振興機構法に基づき、前身の日本貿易振興会(1958年設立)を引き継いで独立行政法人として設立。国内48か所、海外74か所のネットワークを活用し、海外ビジネス情報の提供、中堅・中小企業等の海外展開支援、農林水産物・食品の輸出、対日投資の促進とスタートアップ企業の海外展開支援を通じたイノベーション創出などに取り組んでいる。市場開拓・展示事業部のほか、お客様サポート部、イノベーション・知的財産部、対日投資部、農林水産・食品部、デジタル貿易・新産業部、ビジネス展開・人材支援部、海外調査部などが、それぞれの専門性を活かし多方面で企業の海外ビジネスをサポートする。

■費用や手続き代行、海外市場や商習慣への対応支援も

清永:海外でのビジネス展開を検討する企業の方は、ジェトロの名前は聞いたことがあるとは思いますが、あらためてその支援内容を教えてください。

吉村:ジェトロは国内外のネットワークを活用し、日本と海外のビジネスを促進するために、海外情報の収集・提供や商談会や展示会等の各種事業を実施しております。弊機構の主要な活動の柱の一つとして中小・中堅企業の海外ビジネス支援を行っておりますが、市場開拓・展示事業部はこの分野において重要な役割を担っております。様々な支援ツールがある中で海外展示会の出展は、前身の日本貿易振興会時代の60年前から取り組んでおり、現在も機構の中心事業の一つとなっています。

清永:海外展示会出展についてはどのようなサービスを提供されているのですか?

吉村:支援先の企業の規模や出展する展示会によっても異なりますが、出展料の一部や各社のブースの基礎装飾や基本備品をジェトロが負担します。例えば、中小企業には一般の出展料の2分の1をジェトロが負担し、企業の方の費用負担を軽減するということです。無料ですと気軽に挑戦できるとは思うのですが、事前準備や当日、フォローなどにはリソースが必要になりますので、その覚悟というか本気になって取り組んでもらいたいこともあり、ある程度負担していただいています。

清永:海外の展示会は出展料も高いですし、実は展示装飾の費用もずいぶんしますから助かりますね。

 

吉村:また、展示会によっては多くの出展企業をとりまとめてジェトロ・パビリオンをつくるケースがありますが、日本ブースとしてまとまって出展することは、高品質な日本製品というブランドイメージを活用できます。また、出展する一企業だけでは影響力がなくてもJETROが間に入ることで主催者と交渉しやすくなります。

清永:合同ブースで多くの出展者が連携し、バイヤーに一丸となって訴求することで訴求効果も生み出せそうですね。

吉村:出展企業や自治体どうしで競合してしまうとの懸念もありますが、同じ製品カテゴリーをまとめてブース内でコラボ的な展示をするとバイヤー目線では良い展示になると思っています。そのあたりは今後の課題ですね。

清永:日本ブース全体で売上が上がれば、個社の売上もあがるという全体最適なマインドセットが必要かもしれませんね。

吉村:成功体験があれば変われると思います。そういう経験ができる環境を整えたいですね。また、出展者の課題のなかに英語の問題もあります。英語での出展申し込み手続きや申請のお手伝いもしています。

清永:出展申込や事前準備、各種手続きはなかなか大変で、手間もノウハウも必要で、それだけで担当者は忙殺されてしまいます。海外出展だと業務負担がさらに高まりますから、そこをサポートしてくれるというのは、出展費用の補助以上にありがたいことかもしれませんね。

吉村:展示会の内容によっては産業分野ごとの専門家によるアドバイスやハンズオン支援、アテンド要員や通訳もサポートするケースもあります。また、知的財産の保護対策を講じてなかったために海外出展をしたことで模倣品をつくられるリスクもありますので、イノベーション・知的財産部が外国出願費用の一部負担等、特許、実用新案、商業などの取得のお手伝いをしています。

清永:出展する企業のゴールは展示会場に自社製品を並べることではなく、販路開拓や売上をつくることがですから、そこまで付き添って支えて続けてくれるのは、出展社にとって心強い存在だと思います。

 

■テクノロジーの波が展示会場にも押し寄せている

吉村:中国では最近は、中国版LINEとも言われているWeChat(微信)を展示会の名刺交換代わりに商談で使うことが増えています。

清永:中国に限らず展示会で成果を出すためには、展示会だけでなく、テクノロジーを活用したオンラインでの訴求や商取引など、全体を設計することが必要ですね。

吉村:中国の化粧品の展示会で自撮りをしている女性が多いなと思ったら、みんなインフルエンサーさんでした。中国では化粧品等各分野で影響力のあるインフルエンサーを利用した販売促進が浸透していることから、出展企業が有名な方にブースに来てほしくてやっきになっていました。

清永:リアルとバーチャルどっちが良い?ということでなく役割が別なので、ケースバイケースで適した方を使うべきですよね。

吉村:オンラインツールは手軽にコミュニケーションができて便利なのですが、ハンドリングネームのみしか記載されていないのでどこの会社の人かわからなかったり、といったリスクもあります。企業名がわかるための仕組みをつくったり、リスクを回避する使用方法をアドバイスしたりということにも取り組んでいきたいですね。

清永:そうした情報収集やノウハウの蓄積は一企業ではむずかしいのでジェトロさんに期待しています。

吉村:期待に応えるようがんばります。

吉村:海外の展示会主催者が展示会期中のリアルの出展の場だけでなく、WEBを活用し、年間を通じてフォローする場をつくっているケースもあります。ジェトロが長年出展支援を行っている「メゾン&オブジェ」もそのような取り組みを始めた海外展示会の一つですが、このようにWEBを活用することでさらに出展者のビジネスチャンスを拡大できないかについて検討しています。

清永:5Gの導入によって、ARやVRが入ってきて展示会場の様相が一変することになるでしょうね。

吉村:テクノロジーによる展示会手法の変化を常にウオッチし時代に取り残されないように知識と経験を常に更新していますが、時代が変化しても商品を手に取ることでしか伝わらない手触りや質感、その人が信頼できる人かどうか直接会って確認する、といったリアルな場としての展示会の役割は変わらないと思っています。

清永:流通業界では、実店舗対ECサイトで競争しつつ協業もしていますが、展示会でも同じことが起きています。どれだけ多くの来場者を集客するか?という技術には、オンラインでも展示会でも使える共通のスキルやノウハウがあります。本質は同じなので、ECで得た手法は展示会でも大いに活かせるでしょうし、展示会で開発した手法がECにフィードバックされていくことにもなると思います。

■海外市場で成功する出展企業の条件

清永:ジェトロが支援している企業はどれくらいの規模の会社が多いですか?皆さん海外出展ははじめてなのでしょうか?

吉村:2〜3人でやっている小さな企業から中堅企業まで様々で、海外出展の経験の有無もいろいろですね。慣れている企業では、ジェトロのサービスメニューから必要なものだけ取捨選択して取り入れるところもあります。一方で日本の展示会も出たことがないという企業もいらっしゃいます。

清永:出展内容についてもアドバイスをされるのですか?

吉村:予定している出品物が展示会に来るバイヤーのニーズにマッチしていない場合もあります。そういう場合には、別の製品やサービスを出展するように提案することもあります。

清永:1ブース、1アイテム、1ターゲット、という原則を私は提唱しています。あれもこれもでは、顧客にアピールするのはむずかしいですもんね。

吉村:確かに展示会を訪れるバイヤーさんは忙しいので、いろいろ興味ない商品について長々と説明されるよりも、ある程度商品を搾りこんで説明する方が良いということでしょうか。

清永:はい!おっしゃる通りです。ただ1アイテムというのは商品1つでなく、商品と商品を組合せてソリューションとして提案した方がいい場合もあります

吉村:バイヤーの視点に立つと、1アイテムの単位で説明する方が効果的ということなんですね。

清永:はい。どういうバイヤーをターゲットにするのか。それにあわせて出展する製品・サービスを決める時に、「自社の強みが何なのか」を明確にすることが大切です。しかし自社の強みを把握するのは意外とむずかしいのです。多くの中小・中堅企業では、大手顧客の要望に応えることで製品の品質と技術力が向上しています。しかし、その技術がどう使われているか、どの点が評価されているか、ということまできちんと把握している会社はそれほど多くありません。そうなるとほとんどの企業が自社の品質の良さや技術力を中心に訴求することになります。しかし、それが来場するバイヤーに響くかどうかは、また別の問題です。

吉村:技術力に自信がある会社はとくにそういう傾向があるかもしれません。品質重視の日本国内の既存ビジネスと異なり、海外市場では品質やスペックをある程度下げてもいいので、価格を抑えるとか納期を短く、という依頼もよくありますね。

清永:製品を買って使うのはバイヤーなのですから、バイヤーのニーズに合わせた商材を選び、バイヤー視点でメリットを訴求しなければいけません。逆に言えばそれさえできれば、勝ちゲームなのですが、自社の強みを客観的にとらえるのはむずかしいですね。

吉村:日本製品に品質の高さを求める欧米のバイヤーには、その製品の裏側にあるストーリーを求めることが多いです。製造における品質へのこだわりとか、製品開発にこめた想いであるとか、作った人の顔が見えるというか。

清永:担当者の方にヒアリングをすると、良いストーリーをお持ちなのですが、なかなか自分からは話してくれない。日本人のシャイさもあると思うのですが、気づいていないのですよね。

吉村:そういうところ見つけて教えてあげるのが、周りにいる私たちの役割なのかなと思います。

清永:素晴らしいポイントをこちらから指摘しても、「それくらい普通ですよ」とおっしゃいます。すごくもったいない。自社としては普通かもしれませんが、バイヤーさんにとっては特別なことになり得るのです。

 

■展示会出展を機会に戦略構築と見直しを

清永:展示会は自社のよさを広く伝える場ですが、その前に自社のよさとはなんなのか、という再発見と社内共有が必要です。「自分たちってすごいんだ」という自信とその強みに対する共通認識をもってもらいたいですね。

吉村:海外で自分の製品のニーズがあるのだとの自信を持つことが、さらにビジネスを拡大する上でいろんな面でプラスに作用しますよね。出展目的としても、売上・販売促進、認知度向上以外に、自信の根拠となる高評価のポイントなど、なるべく多くのバイヤー側の声を展示会場で集めることが大切ですね。

清永:社内のコンセンサスも重要ですね。

吉村:展示会出展の目的等については、経営者、関係する部門および担当者が温度感も含めて意識して社内共有して欲しいですね。展示会はある程度継続して出展することで成果が出ますので、長期的な視点に立った戦略が必要になります。これまでも支援を申し出た担当者が異動になったことで、他の誰も引き継がずに出展自体が取りやめになった例もありましたが、ある程度成果が出始めた企業でしたので非常に残念でした。

清永:私の本を読んでくれた担当者が、いろいろと実践しようと試みたのですが、社内でのコンセンサスが取れずに、自分1人だけでがんばってもうまく行かなかったという悩みを聞くこともあります。そのような状況を防ぐため、企業の展示会支援の最初の打合せには、社長や営業担当の方はもちろん、製造、設計、総務の方とかも展示会営業プロジェクトチームに入っていただき、根本的な方針をみんなで考えてもらいます。企業戦略を考え共有することは、社長の考えがみんなに伝わったり、社員の意見が社長に届いたりするすばらしい機会です。こうしたことは、本来、展示会に出ようが出まいが、常に考えるべきなのですが、日々の多忙な業務のなかで、できていない企業も多いのが現状です。その点、展示会は会期という締切日が決まっているので、考えるいい機会になります。

吉村:各部署で考え方が合わないこともありますが、社をあげて取組むというのは大事ですよね。本来誰か1人が担当で進めるべきものでなく、部門横断で取組むことが成果を上がるためには重要だと思います。

清永:展示会にはそういった社内向けの効果も実は大きいです。企戦略を構築し、展示会で検証するというサイクルを回す。展示会出展は会社を変える取組みでもあるのです。

吉村:そういうしっかりしたコンセプトをもち、戦略をたてた企業は、あとは経験を積みさえすればたいがいの壁を乗り越えられます。海外進出や展示会出展でジェトロはさまざまなサポートができますが、戦略とコンセプトは企業自身で考えなければなりません。

清永:国内出展で自分たちの強みをわかって戦略をたて、その後に海外に出て市場や商慣習の違いなどに応じてアジャストしていくのが、勝ちパターンのひとつかもしれませんね。

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